主流ではなく、人々に見向きされないモノ、忘れ去られつつあるキワモノ。そんなガジェットに血と涙と金を注ぐのは私だけではないはずだ。
前回3年ぶりに日本に帰国したとき購入したSony Wena3。これをスマート「ウォッチ」と呼ぶことは不可能ではないが、一般的な腕時計と組み合わせて使用することを前提に設計されたスマートデバイス。腕時計ストラップのバックル部分と合体しているのでこれをスマートバックルと呼ぶほうが正確だろう。
これがまた、文句は多々あるものの愛らしいニッチなデバイスなのだ。どうせここまでニッチなものを作っちゃったんだから、もっとPebbleのようなオープンなプラットフォームにすればもっと人々が色々弄れるのに、とか。『すまほん!!』氏による愛のあふれるレビュー「wena 3」レビュー。万人向けではないが、唯一無二にして究極の浪漫」もぜひともお読みいただきたい。
スマートバックルは他にも存在しなくはない。Wena 3と異なり画面こそないが、以前当ブログでもGooseberryのSmart Buckleをレビューさせていただいたことがあった。しかしソニーWenaシリーズの特徴は(電子マネー機能しか持たないWena wrist leatherを除けば)ユーザーに通知を知らせることにある。
特に最新のWena 3ではタッチ式有機ELディスプレイを持っている。ハード的にはとても素晴らしいデバイスなのだが、アプリの面ではアクティビティトラッカーとしての機能は問題なさそう(とは言え自分は万歩計としてくらいしか使っていないので本格的なアクティビティトラッキングを必要とする人が満足いくかは知らないが)なものの、色々と融通が利かない困った奴なのだ。
以下に小文字で文句を書き連ねよう:
メッセンジャー系アプリで同一人物から立て続けにメッセージが来ても、通知こそその都度来るものの、確認できるのは最後に来たものだけでその前のメッセージは表示できない。
各種通知やタイマー、アラーム画面などが一度表示されると、自動で画面タイムアウトはするものの、手首を上に向ければ先見た画面が表示されたままで、ホーム画面に戻らない(そういう設定もない)。これまで各種スマートウォッチを所有してきたが、スマートウォッチとして日付や天気、通知数が表示可能なホーム画面を表示させるためにはいちいち物理的に本体を触らないといけないという。
天気の表示はユーザーの位置ではなく設定した地域で固定だし、スマホを日本語で使っていると日本国内の天気しか表示できない。カスタマーサポート曰く「ご利用中のスマートフォン端末がAndroid端末の場合、端末言語設定をフィンランド語に変更していただくことで、天気設定でフィンランドの都市を設定することができるかと存じます」。
そうは言っても識字性も高いし、Pebbleと異なり何も設定せずとも日本語の通知が不自由なく読めるし、Suicaの使用にも便利(だが楽天Edy、iD、QUICPayなどはおサイフリンクサービス終了)、Qrio, Sesameなどのスマートロック施錠・解錠にも対応などなど(使っていないけど)。
しかもすべての機能を手首の内側に集約している。こんなに伸びしろのある、かつソフト面で伸びしろを無駄にしている大手企業から出たガジェットは最近なかなか珍しい。だからこそ更に愛おしく感じるのだ。
まあ何はともあれ本題に入ろう。デバイスのハード的には問題は感じないWena 3なのだが、別の問題が実はある。レザーストラップだ。(写真中央がWena 3 付属のストラップ。A-1 Autoについているのはフィンランドの革職人に作ってもらったバージョン。)
ストラップバージョンを購入すると、一枚のレザーストラップがついてくる(写真上)。時計にまずストラップピンを装着し、(パススルー式のNATOストラップと同様に)腕時計の裏蓋下を覆うようにストラップを通し、Wena 3本体の両端にストラップを通して好みの長さでバックルピンに留め、ストラップの端を折り込むようになっている。
かなりうまくデザインされた構造であり、1.4mmほどの薄いストラップとしてもよくできている。だがこれ、腕時計の付替えがめんどくさいし、薄いとは言えストラップの厚み分腕時計が出っ張ってしまう。
非常に稀にではあるが時計部だけが引っ張れてしまい片方のスプリングバーが飛んだりとかしたりもしたことがあった。
そこで一枚物のパススルー式ではなく、一般的なストラップのようなものが欲しくなったわけです。それでも適当に安く大量に作る気はなかった。昨年末には上写真のようにこのように構想はできていたのだが、作るときは以下の点を重要視したかった為、完成までこれほどまでの日数がかかってしまった。
1. フィンランドを中心としてヨーロッパで製造
2. レザー職人の手によるハンドメイド
3. そもそもWena3との互換性がないと困るので薄さはWena3のものに合わせて1.4mmとする
Wena 3自体がニッチなものであるから、MOQ(最小発注数)が数百となるような量産はしない。そうなると当然単価は上がるが、一つ一つヨーロッパで手作りされるものであるということで購入者に納得していただきたい。
実は職人探しがなかなか難しかった。フィンランドと、海を挟んだ隣国エストニアでまず探したのだが、「この薄さはウチでは無理」というところもあれば、「一つは作れるが・・・時間がなくて複数本は難しい」という職人も。
結局、フィンランドの職人にプロトタイプの作成依頼を行うことができたが(上写真がそれ)、複数本の制作はスケジュール的に無理とのことで、その人の信頼するルーマニアの革職人Time Well Spent氏を紹介してもらった。
こちらがそれである。
外側の革はWena 3のものに合わせ、模様のないスムーズな表面のもの。使用されているのはカーフスキンのBovine Grain Leatherで、クロームなめしされたものを使用。植物なめしという選択肢も存在するが、ここでは植物なめしよりも傷耐性、しなやかさ、色落ちのしにくさ、などの点から革職人がクロームなめしを選択している。
内側の革は、シボ加工のあるものを採用。こちらはAlran Sully Chevreという山羊革が使用されている。Wena 3では内側にもスムーズな表面のものが使われているが、内側の材に変にシワが寄る可能性を考慮してシボ加工のものを選択したとのことだ。
実は制作依頼時点で革職人に教えそびれていたのだが、Sony Wena 3純正レザーストラップ(上写真)も実は内面はシボ加工が施されているのだ!
ここまで薄いストラップではあるので耐久性が心配ではあったが、それよりはもともとのWena 3のストラップに欠けていた利便性、「様々な腕時計にもっと気軽にWena 3を装着」という点を追求するため、クイックリリース式のスプリングバーを採用した。
気になるお値段は送料込みで200ユーロ。
生産コストも高いが、送料も安くないのがヨーロッパの現実だ。結局日本発送も含めるとかなりの価格となってしまったが、ヨーロッパで職人の手による手作りという選択をしたので仕方がない点である。発送から到着まで14日程かかる見込みである。
たしかに高い。それでも送料も抑えに抑えて、配送業者の担当者さんにも頑張ってもらって可能となった値段である。
余談だが先日A-1 AutoにWena 3をつけて、世界的にも有名なウォッチメイキングスクール、Kelloseppäkoulu / The Finnish School of Watchmaking(写真)に行ったのだが、現校長ともう一人の職員の方に「なにそれどこで買える欲しい!」と言われた(学校ではスイスRadoの自動巻きをつけているが、プライベートではスマートウォッチ着用とのこと)。
Wenaはいわゆる「JDM(Japan Domestic Market)/日本市場向け」なのか海外で公式に取り扱いがないのが悔やまれる。ソニーさんにはぜひとも海外展開も考えて欲しいところだ。
コメント