手巻き機械式で薄い腕時計、怪しげなソ連製ヴィンテージなら1万円以下!Poljot 2209


風防含め厚さ10mm以下の機械式腕時計。と聞くと10万円位しそうだが、実はソ連製のヴィンテージムーブメントを使用したフランケンウォッチなら、eBayで1万円以下で購入できる。

先日の「予算10万円程度で、自動巻きで薄い腕時計が欲しい!」という記事、そして「シンプル&エレガント。10万ちょっとで買える極薄自動巻きミドー・バロンチェッリ・ヘリテージ」に続き、今回も薄い腕時計の話となってしまった。フランケンウォッチであることが気になる方もおられるだろうが、この薄さでスタイルもいい、それに安いとくれば買ってレビューしてみないわけにはいかない。


もくじ

手巻きで薄い時計も高い?
2209ムーブメント
POLJOT de luxeしかしナカミは…
切り込みインデックスが上品な文字盤
新品の竹斑ストラップ(XL)
まとめ:スタイル、薄さ、手頃価格の三位一体


手巻きで薄い時計も高い?

10mm以下の腕時計となると、手巻き式でもなかなか安い物は見つからない。

ハミルトン・カーキ・フィールド・メカニカルは7万円台後半。ムーブメントはETA 2801-2ベースのH-50。 安くても厚みは9.75mmとそこまで薄さが強調された時計ではない。



もっと薄い物では、安くても6万円のエポス・オリジナーレ3408WHMなどがある。ムーブメントはPeseux 7001、厚さ5.9mmとこれなら「薄い」と断言できる。


高いほうでは10万とか(同じくエポス・オリジナーレより3408gpgy、5.9mm)、6.5mmのノモス・タンジェント(自社製キャリバーAlpha.2搭載)は20万円する。


 でもやっぱりソ連製ヴィンテージならそれが1万円以下で買えるのだ!


2209ムーブメント


搭載するムーブメントは第一モスクワ時計舎こと1ГЧЗの「2209」。以下ムーブメントとその歴史に関して詳しく説明が載っている2209Watch Movementを参照に記させて戴く。もともとこのムーブメントは1961年にソビエト産業省が3mm以下のムーブメントを作るよう指示したことで生まれたもの。

22はムーブメント径を表し、09はムーブメントの機能コードとなっており、秒針が中央から出ている手巻き式耐衝撃機能付きであることを示す。

もともとは第一モスクワ時計舎がVympel(三角旗の意味)ブランドで出していたが、1963年にリブランディングがなされたためその後全部Poljotブランドとなった。

2209ムーブメントはミンスク時計舎にも販売されており、Lunchブランドの物はミンスク時計舎(М Ч З=Minsk Watch Factory)からでたものとのこと。

なおこのほかにもイギリスのブランドSekonda向けにも2209ムーブメントを使用してソ連で生産された腕時計も存在するようだ。

2209ムーブメントは最終的に90年台まで製造されていたようだ。


image: eBay

現在eBayなどで販売されている2209ムーブメント搭載の腕時計は、ぱっと見POLJOTやVympel、Lunchの60年台当時の極薄腕時計として販売されているものが多い。しかし実際にはムーブメントこそ当時の2209を搭載するものの、文字盤、針、ケースなどは新品だったり、他社の物を流用したりしている、リファービッシュ品というか「フランケンウォッチ」が多いのだ。果たして今回eBayで落札した物は…


POLJOT de luxe!しかしナカミは…


少し前には第一モスクワ時計舎のアラーム付き機械式腕時計を「アラーム付き機械式腕時計は高級?ソ連製ヴィンテージなら1万円以下!第一モスクワ時計舎SIGNALをご紹介」としてご紹介したのも記憶に新しい。

そちらは「SIGNAL」ブランドだったが、今回の時計は「POLJOT」ブランド。先の説明の通りどちらも第一モスクワ時計舎のブランドだ。 


やっぱりケースは薄いね!実測で風防含めて8.41mm。 


風防含めて7.33mm自動巻きのミドー・バロンチェッリ・ヘリテージとも良い勝負。10万円以上する腕時計と比べるのも変かもしれないが。 


ケース径は35mm。ラグ端からラグ端までは42mm。 


風防はプラスチック製だろう。ケースに沿って綺麗にドーム状を描く。

実はeBayでの出品詳細には「Dicke, mit Glass 7mm」(ドイツ語で「厚み、ガラス込みで7mm」のはず)と記されていた。購入当時2209ムーブメント搭載の腕時計で風防含め7mmというのは最薄。


英語で書いてなかったのと、風防込みで7mmというのが信じ難かったため問い合わせたら「はい、その理解で正しいです。時計の厚みはガラス込みで7mmです」との返事が来たので注文したのだが、まあ悪く言えば嘘、良く言えば誤記だった訳だ。

筆者はこの辺のリスクは承知で購入しているので問題無いが、気になる方は注意されるべきだろう。


ラグは横から見ると、時計部に近い位置は細く、一番下部分が太めに作られている。 


ラグは上から見るとほぼ本体からまっすぐに伸びるが、僅かに先端が細まる。


斜めから見ると上面の外側は僅かにカーブが着けられているのも判る。


竜頭は無印のコインエッジ。 細かいつぶつぶは汚れではない。触っても突起しているように感じないほど非常に細かい。


裏蓋はなんの刻印もないはめ込み式。


なんだか巻き芯が見えるような。 


開けると金色に輝く2209ムーブメント登場!


巻き芯の上には薄い金属のカバーが緩く被せてある/巻いてある。 


あれ、ムーブメントの刻印を見ると…

「М Ч З」、ミンスク時計舎で作られたもののようだ。ということは本来は文字盤にあるように「POLJOT」ブランドでは無く「Lunch」ブランドであるべき…。

やはりフランケンウォッチだったがこれも想定内なので問題無い。フランケンではないものであれば1万円では買えず、もっと高価だったはずだ。なおミンスク時計舎で2209ムーブメントが作られたのは1962から1975年とのこと。 


切り込みインデックスが上品な文字盤



ここまで綺麗な文字盤で、60,70年代当時の腕時計がこんな値段で買えるわけない、と言わんばかりに綺麗な文字盤。

サンレイ仕上げの文字盤は外側がカーブしており、光の反射が美しい。


インデックスは文字盤に切り込みが入れられて、切り込み部が金色となっている。このほかの文字盤タイプも存在するが、インデックスをプリントでもアプライでもなく、切り込みで表現するのはなかなかイカしたデザインだ。 


時分秒針はどれも金色で艶のある仕上げ。


プリントは「POLJOT」、「de luxe」、「23 jewels」(23石)、「Shockproof」(耐衝撃)、「MADE IN USSR」(ソ連製)。


新品の竹斑ストラップ(XL)


ストラップは新品、幅18mm。クロコダイル竹斑型押しのレザー。


なんだか長いなと思ったら裏には「XL」とあるとおり、通常のストラップよりも長め。ブランド名は「Romiks」。

(ミドー・バロンチェッリ・ヘリテージのストラップが薄かったのと対称的に)ストラップはクッションが結構分厚くて、堅い。セイコー・アルピニストSARB017に付いてくるストラップを思い出した。


まとめ:スタイル、薄さ、手頃価格の三位一体


ケースも文字盤も風防も綺麗だし、フランケンウォッチであると言う事実さえ気にならなければ、たったの1万円以下で厚さ僅か8.41mmの機械式腕時計が購入できるというのは素晴らしい。

気をつけなければいけないのは、出品されている殆どのものは「フランケンウォッチ」だということ。つまりそれらは本物のPoljot De Luxeではなく、存在する部品や新規部品を継ぎ接ぎしたものだということ。

なので特に商品の記述や写真には注意を払う必要がある。

例えば、ちゃんとムーブメントを見せている写真があるかどうか。これで正しくPlot 2209が入っているかが確認できる。それに今この投稿をお読みの方ならムーブメント写真の刻印からその真偽を見極める術(詳しくは2209 Watch Movementをご覧になると良いだろう)も判るはずだ。

そして厚みも要確認だ。風防の厚さ、ケース、ケース裏蓋の厚みが出品物によってだいぶ異なるようで、この腕時計に肝心の薄さもまちまちなのだ。例えばほぼ同様の見た目であっても、製品詳細に記してあるケース厚が10mmから7mmまで差がある。


製品詳細に書いてあるケース厚も一応問い合わせて確認した方がいいだろう(今回購入したものは問い合わせた結果得られた回答と実物が異なっていたわけだけれど)。なぜならものによっては「ケース」の厚みだけが記されているもの、そして「ケース+風防」の厚さが合計表記されているものがあるからだ。

実際、私が検討した中で2番目に薄い「ケース厚」の出品は、「ケース厚7.6mm」だったのだが、出品者に問い合わせたところ、風防を含めると8.4mmとのことだった。この正直な出品者はこちらだ。どうせ8.4mmのケースの物になるならここから買えば良かった。

ただし、そのおかげもあって、薄い機械式腕時計としては破格の1万円以下で購入できる。 自動巻きのドレスウォッチで、新品で同じくらい薄いのがいいという方は、14万円するが上写真真ん中のミドー・バロンチェッリ・ヘリテージ(風防含め7.3mm)をおすすめしよう。(薄さはいいからこのようなドレッシーなスタイルの手頃なものがほしいという方は上写真で奥にちらりと見えるオリエント・バンビーノ36をおすすめする。)



image: eBay

eBayで「USSR 2209」、もしくは「POLJOT 2209」などと検索すれば沢山見つかる。上の写真のように文字盤のスタイルも様々なので、お気に入りの物が見つかることだろう。1万円以下の綺麗な物を購入/落札される際にはまずフランケンウォッチであるという認識をお忘れ無く。グッド・ハンティングを。

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