手頃自動巻きダイバーウォッチの決定版:セイコーSKX009(007)詳細レビュー


セイコーSKX007とSKX009は手頃な価格でありながら、歴史に残ると言って過言ではないほどの高い人気を誇る自動巻きダイバーズウォッチだ。パーツを組み替えての改造=MODをする人も世界中に数多いことや、元が安価な腕時計なのにオマージュウォッチも多数存在することもその人気を物語る。

惜しまれつつも生産終了となったようで、価格も徐々に上がりつつある。その一方で、人気の高さから未だ多くの在庫がある店も少なくないようで、まだまだ安価に手に入れられるこの腕時計を今回はご紹介しよう。

今回レビューするSKX009はベゼルが青・赤の所謂「ペプシ」と呼ばれるもの、SKX007はベゼルが黒のもの。


もくじ

SKXは廃盤?
ワクワク開封の儀式
シンプルなのにセクシー…やっぱりセイコーのケースは美しい
実用性高し。シンプルで見やすくも安っぽくない文字盤
メタルよりも安価なガッシリ系ラバーストラップ
まとめ:今も、そしてこれからも世界中で愛される名ダイバーズウォッチ(買うなら今か、それとも精神的後続機か、はたまたもっと安価なセイコー5か)


SKXは廃盤?

当ブログでこれまでにご紹介してきた「ベイビー・グランドセイコー」ことSARB035(とSARB033)、そして現行の一つ前の「セイコー・アルピニスト」SARB017と同じく、SKXも廃盤決定のようだ。ただ、これまでにもSKXは長く廃盤の噂がつきまとっていたのも事実だ。

 
Long Island Watchが、2019年にBaselworldでセイコーの「比較的高いポジションにいる人」に直接SKXは廃盤になるのか、尋ねたところ「そうだ」と答えられたとのこと。上はそれを語る動画。動画によれば、2010年代後半には既に廃盤の噂もあったし、当時から米セイコーは米版SKX007/009を廃盤にしている。それに加えて2018年終わり頃には(アメリカの小売店で?)SKXの在庫が入手しづらくなるといったことも起きていたようだ。

この廃盤の背景には、SKXの使用してきた7s26ムーブメント(後述するが、手巻き機能とハッキング機能が無い)が今の時代に合わなくなってきていることもあげられている。

実際、セイコーは2019年よりSKXのデザインを継承した「セイコー5スポーツ」をリリースしており、そちらではアップグレードされ、手巻き機能もハッキング機能もついたムーブメント4R36が採用されている。


ワクワク開封の儀式


SEIKOのロゴ入りの白い外箱を開けると・・・ 


合皮っぽいテクスチャーの灰色の化粧箱が登場。天面にはロゴが箔押ししてある。


それを開けるとこんな感じ。こちらも蓋の上部分は箔押しロゴ。


おおおこれが世界を虜にしたダイバー…


…なんて独り言も飛び出る本体の他、取扱説明書、保証書が付いてくる。


シンプルなのにセクシー…やっぱりセイコーのケースは美しい



コストパフォーマンスがSKXの人気の理由の一つであることは言うまでも無いが、ケースの美しさもその人気の秘密だろう。一見するとシンプルだが、ケースにはセイコーらしい丁寧さのある美が宿っている。


例えばこのラグ部分。ケースの上面は、時計中心から円を描くようにヘアライン仕上げが施されており、ラグの描く滑らかなカーブの終わりまでヘアライン仕上げが続いている。その脇は僅かな下向きの傾斜がつけられ、そこから今度は内向きの傾斜が掛けられているのだが、これらの部分は艶々の鏡面仕上げ。


この上面はヘアライン仕上げで側面は艶出し仕上げというのは、当ブログでこれまでレビューしてきた「アルピニスト」ことSARB017も、「セイコーの良心/ベイビーグランドセイコー」ことSARB035も、セイコー5のSKXY09とも、セイコーAGSの7M22-6A00とも共通している点で、セイコーらしさと言えるだろう。これは 確立されている「グランドセイコーのデザイン要素」とはまた異なるものではあるが、ここには確かな「セイコーらしさ」が存在する。

風防はフラット。風防のフラット面の高さは、ベゼルのインサート面とほぼ同じ。風防の材質はハードレックスなので、傷が付きやすいことを心配される方もおられるだろう。(ハードレックスはセイコーの作る風防で、セイコー曰く無機ガラスに「特殊強化加工処理」を施したものだそう。普通のガラスやプラスチックよりは傷が付きにくいらしいが、サファイアグラスほどではないらしい。)


だが上写真のように実はベゼルの外縁部分は、ほん~の僅かだが風防よりも高くなっている。このため、平らな床や壁などにぶつけた際に風防が傷つくことはない。細かな部分だが巧く設計されていると感じる。ここ2ヶ月間ほどSKX009を寝るときも付けっぱなしで生活しており、特段丁寧に扱っているわけでもないのだが、今のところ風防に擦り傷一つ付いていないのはベゼルのお陰だろう。

もちろん、風防に直接ものが当たれば(サファイアクリスタル製の風防と比べて)傷つきやすいだろう(それもあってサファイアクリスタル製の風防に変えるMODが流行っているようだ)。


風防の最外周は傾斜している。これはベゼルとぶつかってこすれないようにとの配慮かもしれないが、この傾斜部分で文字盤が拡大されて見えるという視覚効果を生んでいるのも面白い。


竜頭は4時位置あたり(3時40分ぐらいの位置?)にある。ねじ込み式で、ねじ込み状態では竜頭ガードにしっかり守られている。


側面はコインエッジで、頭頂はつるつる。刻印の類いはない。

ベゼルは逆回転防止式。ベゼルを回したときの感覚を文字で表現するのは難しいが、高い「クリクリクリ」と言う音がくぐもった感じの感触で、ベゼル回転にはなめらかさも伴う(機会があったら是非実際に触ってその感覚を確かめてほしい)。


ベゼル横部分は全体的に艶のある手榴弾状の、もしくは板チョコレート状の四角が柔らかく突き出している。角は無いが掴みにくくもない。私はこの部分が大好きだ。


横から見ると、ベゼル付け根部分は「くびれて」いる。(そしてくびれの下のメタリックなでっぷりとした感じがたまらなく美しい。)


ベゼル付け根部分はケースのエンドリンクが入る側/ストラップが入る側の側面とは同じ径だが(上写真)…


ケースのそれ以外の部分からすると付け根が中に引っ込んで見える。ベゼルはそこから45度ほどの角度を持って斜め上方に突き出し、これが20度ほどの角度で3mmほど上に突き出す。


ベゼルインサートのはアルミニウムで、塗り分けは0から20までは赤で、20からは紺色(青)となっている。


0部分は逆三角形の中に丸があるが、ここも蓄光部となっているので蓄光が続く限りは暗闇の中のカウントダウン/アップもバッチリ可能だ。


付属の説明書にもあるように、ダイバーズウォッチの逆回転防止ベゼルは、現時刻の分針のところに逆三角形のマークを合わせることで、その時刻からの経過分数がわかるというものだ。だがそうだとこのカラーリングは計測開始からはじめの20分間のみがより目立つ赤色となっていることになる。

この機能はそもそもダイバーが酸素ボンベの残り時間を把握するために付いているはずだが、最初の20分だけ赤いのはどうしてだろうか?一般的な酸素ボンベの容量は20分ぶんとか、120分ぶんなのだろうか?もしそうであれば逆三角形部ではなく20分位置にこそ蓄光部分があるべきだろう。もし60分のカウントダウンを目的として作られたのであれば最後の20分である「50~逆三角形」が赤くあるべきであろうし・・・。(どのみちダイバーズウォッチを着用する人の少なくない数が「ダイビング用途に用いていない」とも思うのだが少し気になった。)


竜頭の反対側横から見るとなんだか王冠を被ったメタルスライム的な見た目にも。側部の膨らみが作り出すこのメタリックヌルヌル感がたまらない。


裏蓋はねじ込み式。


中程は出っ張っており、そこに艶のある波の印が。


「SCUBA DIVER'S」と刻印されている。

使用するムーブメントは7S26。Caliber Cornerによれば7S26は1996年に市場投入されたムーブメントで、21石、21,600bps、耐衝撃機構ダイアショック搭載で、パワーリザーブは41時間程度。手巻き機能やハッキング機能(時刻を調整するときに秒針が停止する機能)は付いていない。そのため、何日も未使用の状態から使い始めるときには少し振ってやらないと動き出さないし、秒単位で時刻を合わせるのはできない。だがこれまで生き延びてきたほど信頼性は高く、なおかつ安価なムーブメントだ。

なおこの時計に関してムーブメントをNH35に変えるというMODが人気なのだが、これはNH36は前述の現行のセイコー5スポーツが使用する4R36ムーブメントの他社向けバージョンだから。つまり手巻き機能とハッキング機能がついているからだ。


実用性高し。シンプルで見やすくも安っぽくない文字盤


「シンプルのっぺり」感のある文字盤。そんな書き方をすると安っぽく聞こえるが、不思議なことに安っぽさは感じられない(安っぽい時計であれば文字盤はただの厚手の普通紙かのように見える)。それは、光の反射を抑えるマット地であるためと、日付窓の傾斜のおかげかもしれない。

黒い背景に各時のインデックスが白く浮かび上がり可視性は高い。


曜日・日付ディスクは白い。普段私は文字盤色とディスク色が同じである事を好むが、この腕時計の場合は白いディスクでよいと感じる。なぜなら、他のインデックスも白であり、このディスクの白色が、インデックスを欠いている3時部分のインデックスとして違和感なく機能するのだ。(「白っぽいけど白ではないインデックス」にこのディスクであれば合わないと言い切れるが、白に白なので完璧。)

インデックスは12時が逆三角、6時と9時がピル状、その他は(曜日日付窓のある3時を除き)丸形。どれも白いプリントで、その一回り内側までのルミブライト蓄光が僅かな膨らみを帯びて塗布されている。12時、6時、9時インデックスからは文字盤中心に向かって数ミリ白い線が延びる。


その周囲には角度のあるダイヤルリングが分刻みの白い線と共に配されている。


12時下には「SEIKO」、「AUTOMATIC」の文字が白地で記されている。「S」や「K」のフォントの食い込み部分(?)までくっきり見える。


6時上にはオレンジ色のフォントで「DIVER'S 200m」と記してある。6時下左右には、「7S26-」、「002R R 2」との表記。


針は時分秒の3針。時針は僅かに先端に向かい膨らみを帯び、先端が突き出る。ペンシル針に似た形状だが、先の突き出た姿はどちらかと言えば「芯を出し過ぎたシャーペン」といった感じ。シャーペン本体部にあたる部分は蓄光。


分針はいわゆる「アロー針」に似るものの、大抵のアローは先端形状が矢尻に似るのみであるのに対し、こちらは付け根近くが矢羽に似ているのも特徴。こちらも先っちょは突き出ている。こちらも矢の大部分をルミブライト蓄光が覆う。

秒針は少し趣向が異なる。先の細い側は白く塗られているのだが、真ん中から反対側にかけてのカウンターバランス部分は黒く塗られている。カウンターバランス部の外端は丸くなっており、丸の内部はルミブライト蓄光。黒文字版なのでカウンターバランスの柄の部分は文字盤に溶け込み、白い秒針とカウンターバランスの丸は逆に浮かび上がる。


(蓄光するとご覧の通り。丸、ピル状、逆三角、のインデックス要素は蓄光時にもとても見やすく、蓄光が弱まってきた状態でも時間が読み取りやすい。)

黒白の塗り分けは明所での識別性を高めるためであろうが、その反対側にルミブライトが付いていたのでは暗所ではそれとは30秒遅れた時刻を読み取ってしまうわけだ。これはぱっと見は美しくまとまっているのだが実用面では微妙な仕様だ。長く細い秒針は蓄光には面積が小さいく、対象にバランスを取るためのカウンターバランスに設けた丸部分は蓄光に適してた面積があるというのはわかるが、暗所では30秒ずれた秒針を眺めることとなるのだ。

ムーブメントは時刻調整時に秒針停止機能(ハッキング機能)は付いていない=秒刻みの正確性を求める時計ではないと言うこともあるのだろう。だがよくよく考えると少し変なデザインである。


メタルよりも安価なガッシリ系ラバーストラップ


今回購入したもののストラップはポリウレタン製のもの。これにするかメタルブレス版にするかは購入時の悩みどころだろう。だが、時期や販売者によっては価格差に大きな開きがあることには要注意(記事執筆中にもメタルブレス版の方はだいぶ価格が上がり下がりしている)>



ここまで価格に差があるので、ポリウレタン製ストラップ付属モデルと純正メタルブレス、もしくは半額近く安いサードパーティー製のSKX用メタルブレスを買った方が良いだろう:




さて、ポリウレタン製ストラップの話に戻ろう。ストラップ穴の数は結構多め。


端っこにはキラめく波の絵の印が。これはケース裏のマークと同じようだ。



その裏には「SEIKO Z 22」と記してある。この、ストラップの裏面/手首に触れる面には(レザーで言うところの)「シボ」様のテクスチャーが施されている。


摩擦で皮膚やダイビングスーツの上で腕時計が回ってしまわない様にするためだろうか。


バックルは艶消しでシンプル。


バックル裏には「SEIKO ST. STEEL - Z」の表記。ST. STEELはステンレススチールのことだろう。さっきの「Z 22」もそうだが、このZはなんなのだろう。


固めで、頑丈そうな作り。200m防水を謳う時計の中にはストラップが本当にそれだけの耐水性能を持つのか怪しそうなものもあるが、これなら問題なさそう。ダイバー用の200m防水腕時計なだけある。ストラップループの内側にスリットが入っていて手首側がカーブする作り。


普段使いにはそこまでの頑丈さは必要ないのでこのように付け替えて使用している。


まとめ:今も、そしてこれからも世界中で愛される名ダイバーズウォッチ(買うなら今か、それとも精神的後続機か、はたまたもっと安価なセイコー5か)


シンプルながらも美しさと実用性を兼ね備えたセイコーデザイン。200mのしっかりとした防水性能。

しかもこれらすべてを僅か2万円という値段で実現しているのがSKXが世界中で愛され、そして今後も愛され続けるであろう理由だろう。


私はここ2ヶ月ほどずっとこのSKX009を付けっぱなしだ。個人的には曜日も日付も見えるのが最近便利に感じていることもあるが、ケース側面の膨らみや艶(つや)、そしてベゼルサイドの滑らかな手榴弾状のテクスチャーのなまめかしさ、ベゼルを回すときの鈍いクリクリ感(是非実機をクリクリして確かめてもらいたい)などがたまらない魅力となっている。


そしてMODコミュニティーにより裏打ちされた人気も忘れてはならない。それだけ、MODのベースとなる腕時計として、素の状態の魅力、性能の魅力、価格の魅力、があるというわけだ。Instagramで「skxmod」などと検索してみると、ストラップやベゼルの交換といったところから、風防、針、文字盤の交換まで様々なMODを多数見ることが出来るだろう。


私の周りのSKXのMOD愛好家達におすすめのMODを訊ねるとよく返ってくる回答は「とりあえずSKXを2本買って、それからいろいろ自分で楽しむべし」と言うものだ。「SKXのMODに絶対的な正解はないから」と言って一言目では教えてくれないが、それほどまでにMODの幅が広いこともその裏にあるだろう。


「まずは弄らずにそのまま愛でるように一本」、そしてもう1本がMOD用。「MOD用だから新品である必要は無くて、中古で安くゲットすべし」とのこと。MOD好きの人にとってもこのバニラ状態のSKXはそこまでの魅力があると言うことの表れだろうか。


予算があればそうしたいところだが、廃盤の話もありSKXの価格は徐々に向上してきている(画像はChrono24アプリより)ことも考えるとなかなかそう2つも気軽に買えるものではない・・・。逆に言えば、もう廃盤な訳だし今を逃したら買い時がなくなるから買うなら今…。

などと悩ましいところだが、個人的にはこの一本を愛でつつ、後々moddingなどもしてみようかとも考えている。


SKX009/007を購入される場合は、個人的には値段の兼ね合いからラバーストラップ版をお勧めしたい。これはメタルブレス版は価格に見合わないほど高いことがあるためと、上の写真のようにストラップは色々付け替えて楽しむ方が楽しいため、元値は安い方が良いという考えだ。

なお型番の後に「SKX009J~」、「SKX009K~」とあるのは、「J」が日本製、「K」は海外製モデルだそうなので、気になる方は注意しよう(ちなみに私の購入したのはSKX009K1)。SKX009/007が品薄になってくれば国産モデルの方が値上がりしてくるかもしれない。:

 

少々価格が高くともメタルブレス版が欲しい方はこちらからどうぞ:

 

 代わりにムーブメントがアップグレードされた精神的後続機、最新のセイコー5スポーツを購入するのもありだろう。価格がこなれてきたことと、SKX009/007の価格高騰とで今から買うなら選択肢として十分な代替品だ。様々なカラーバリエーションが用意されているのも魅力。


また、もしもっと安価なものが欲しいという方は、今回ご紹介モデルとは細部も異なるし防水性能も100mだが、セイコー5スポーツのSNZF15をお勧めする。これなら逆回転防止ペプシベゼルだし、デイデイト(日付/曜日)表示もあるし、さらにはメタルブレスモデルもとても安価だ。ムーブメントは自動巻き7S36。SKX搭載の7S26とは製造国や石数が異なるそうだ。他に、ディスクが日付曜日揃う位置が異なる程度で、性能の差は無いとされる(7S26は4時位置で揃い、7S36は3時位置で揃う)。

   


精度で優れるモデルでも、機能で他に勝るモデルでもないが、堅実で美しい一本としてSKX009/007は歴史に残る名時計と言えるだろう。


(abcxyz)

コメント