この世の中にあまたにあふれる怪しい時計。怪しげなトレンチコートに身を包んだいかにもな人が街角で販売するフェイクウォッチ・・・なんてのはある程度国際的かつ物価の安めの観光都市にでも行かないともうこのご時世に見ないものなのかもしれない。
だが残念がる必要は無い。そんな雰囲気をお求めなら、インターネットの大海原にならば無数に存在するのだ。
そんな訳で本日ご紹介するのは「FNGEEN」という怪しいブランドが、8.59ドルという1000円を切る価格で販売するもの。複雑機構も備えているように見えるがいかんせん安い!怪しい!
怪しいFNGEEN
Image courtesy of eBay
ある日eBayをうろうろしていたら見かけたのはこちらの製品ページ。画像の時計がトップ画像/今回購入した腕時計とは異なるが、この製品ページから購入した。
ここではFNGEENブランドのクオーツ腕時計が販売されているのだが、この一つのページで4種類の文字盤デザインにそれぞれ多数のカラバリが組み合わさって大変な数の製品から選ばせられるというアンチ・ユーザーフレンドリーな仕様。
今回購入したのは商品番号47番(!)のこちらだ。いくらなんでも一つのページに商品詰め込みすぎだろ・・・。
小綺麗なレンダリング画像。ぱっと見は(この「ぱっと見」というのが重要)何やら複雑な機能が付いているようである。3時方向にはサン&ムーン、6時には謎装飾、9時には12まで記されているスモールダイヤル・・・。
ムーブメントはクオーツではあるものの、文字盤の立体加工もきれいだし、これに二色仕上げのメタルブレスでたったの8.99ドル、しかも送料無料。できすぎた話に思えて仕方が無い。
開封
パッケージはこんな、まあこの価格に何を期待するものでもないし、特に素晴らしい化粧箱を約束していたわけでもないし。
壊れていないので問題ない。
ブレスレット、バックル、裏蓋にはフィルムが貼られ、保護されている。風防面には何も無いけど。
ケース
40mm幅、13mm厚のステンレススティール製。何の変哲も無いケース。可も無く不可も無く。
色はローズゴールドを選んだ。どの部分もつや出し仕上げ。
風防はeBayの記述によればHardlex(ハードレックス)とのこと。ハードレックスはセイコーの作る風防で、セイコー曰く無機ガラスに「特殊強化加工処理」を施したものだそう。普通のガラスやプラスチックよりは傷が付きにくいらしいが、サファイアグラスほどではないらしい。
裏蓋ははめ込み式。大きく中央部に「5606」と刻印がある。周りには「x」を連ねたような模様と、「STAINLESS STEEL BACK WATER RESISTANT JAPAN MOVT」(ステンレススチール裏蓋、防水、日本ムーブメント)の刻印も。一応製品説明によれば30m防水。
ムーブメントには「SL28」の刻印。調べてみたところ、中国のShenzhen Ace Tech Co., Ltd.製のよう。水晶の代わりにC-MOS発振回路を使用したクオーツムーブメントだ。0石。中央に見える白いギアは秒針の動きに伴い動く。
つまり「JAPAN MOVT」は嘘だという訳か。まあ製品詳細にはクオーツ製のムーブメントであるという以外、製造国に関する記述はなかったけれど。
裏蓋には謎の「5」(?)のサイン。一応ガスケットは付いている。
文字盤
さて肝心の文字盤。文字盤は全体的にパール色のようなほのかな輝きを帯びた白に近い色。
各時にケースと同色の光沢と立体感のあるアプライドインデックス。4時と8時はローマ数字。インデックス部はその内側、外側とは一段高くなっており、芸が細かい。各時インデックスの外側は分刻みのプリント。12時下にはロゴマークと「FNGEEN」の社名(ここは立体的なカラープリントかもしれない)。
ロゴ+社名位置からは、放射線状に線が延び、文字盤に立体的な陰影を与え、神々しさを演出。
ここまでは全体的に良い感じ、払った値段より大分素敵な腕時計に思えてき・・・そうは問屋が卸さなかった!
6時位置のオープンハートの機械式時計の悪いパロディーみたいなのはこの際スルーしよう。
そして9時あたりにある分刻み、二つ飛ばしで12までの数字がプリントされたスモールダイヤル・・・こちらにはきちんと針が付いている・・・が、フェイクだ。針は針として別パーツで貼り付けてあるのだが、10時少し過ぎあたりで永遠に時を止めている。まさかこの価格でセカンドタイムゾーン表示なんて期待してはいなかったが、もしかしたら・・・と思っていただけに残念感はある。
3時位置のサン&ムーンダイヤル・・・ここまでの流れで皆様がご期待した通り、これもフェイク。何を隠そうただのプリントである。いつ何時であろうが三日月が登り切らず、太陽フレアも隠れきれないもどかしい夕暮れ時のまま。一応文字盤自体もこのダイヤルの形状と三日月の形に立体的になっているところは手が込んでいる。だがプリントの質、色合いは芳しくなく、まじまじと見ずともこの部分はなんだか怪しいと言うことが感じ取れる。
「GW」は、このサン&ムーンダイヤルのように永遠にゴールデンウィークが続いてほしいという五月病の怨念が赤くにじみ出たものか。「23 JEWELS」はもちろん嘘というか、度の過ぎるジョークというか・・・
一応4時あたりにはきちんと動く日付窓が存在する。ここまでこうして見てくると、この機能がきちんと機能し存在することがまるで嘘のようだが、ちゃんとこれは機能する。日付ディスクが文字盤比で小さいので読み取りづらいが。一応日付表示は複雑機構(complication)のうちに入るので、一つは複雑機構があったわけだ。
ついでに言うと、驚くなかれ、時計としてもきちんと機能する(!)。少なくとも時刻合わせをして一日経過したがずれてはいない。ただし秒針の進む音は大きめ。
あと、時分針は山折れになっており、意外にも蓄光する。(実際には蓄光は製品ページでも宣伝されていた機能ではあるけど)
そう大した蓄光では無いが。これだけ期待が裏切られてくるとうれしさを感じてきちゃう。
ストラップ
3コマのステンレススティール製メタルブレス。
確かに安っぽい見た目だし、切り出しではなく金属板を曲げて作った安い仕上げで、当然ながらエンドリンクも薄ペラ。
だが、塗り分けもはみ出たりはしていないし、両端はつや出し仕上げ、中心はヘアライン仕上げでその両脇のペイントは艶あり。
プッシュ式の方開き三つ折れ式で、8コマ取り外し可能だし、マイクロアドジャストも3設定変えられる。
バックルの仕上げ。
もっと値が張る(けど「安価」の部類に入る)腕時計でも十分あり得る品質だ・・・と言うコメントに皮肉を含んでいないわけでもないが、例えば日本のAmazonでコマが切り出しのブレスを買おうとすると1000円からするということも頭に留めておきたい。
まとめ
1000円のアナログ時計に複数の複雑機構がついたもの、なんていい話、あるわけ無かった。もしも1000円の時計で複数の複雑機構(月日曜日表示、クロノグラフ、アラーム)が付いたものが欲しければ、チプカシでも買うしかないわけだ。
まあFNGEENの時計は確かに怪しい価格で、実際の製品も怪しいものではあった。しかし個人的には同時に興味深さも感じた。
これを購入したeBayではなく、Aliexpressに関する話ではあるけど、そして信憑性の程は調べてないのだが、中国政府がePacket(国際eパケット)の送料を負担しているというコメントがRedditに載っていた。そうであれば送料は度外視した価格で販売できるというわけ。そうであったとしても、この価格でこれを作り、販売し、(多分)利益を出している、というのは驚異でしかない。
確かに「実際には見た目だけの装飾」が機能として存在すると思わせようという商品写真に感じられ、詐欺まがいの面もあるだろう。しかし消費者としては価格からも「そんないい話あるわけない」と怪しむべきだろうし、現物を見ることのできないオンラインでの購入だからこそ商品説明をよく読んでから購入すべきだろう。この点、商品説明には嘘の記述はない。
嘘の記述があるのは、ケース裏の「JAPAN MOVT」と文字盤の「23 JEWELS」の部分だ(冗談と見なすこともできるが、そうできるのはこの記述が実際には間違っていると知ってからだろう)。裏蓋写真は商品ページに載っていなかったので「JAPAN MOVT」に関してはこれ以上言及しないことにするが、「23 JEWELS」に関しては商品写真にもバッチリ写っている。これに関しては商品説明の0 JEWELと矛盾する記述となる。時計に関する知識をお持ちの方であれば「安価なクオーツで0石と23石の食い違う記述・・・これは0石と考えるのが妥当だろう」と考えることができるだろうが、果たしてそうでなければどうだろうか?
そうはいっても、万一だまされた感じたとして、この腕時計が1万円、2万円などで販売されていたら大いに問題だろうが、この価格でだからこそ許せるものでもある。と考えるのも結局のところ、1000円程度の損で生活が大きく左右されるほどではないからだ。このような安価な腕時計が消費されるのは多くの場合、豊かではない国でのこと(事実eBayやAliexpressで安価な時計のレビューは東欧や南米からが多い)。個人的に許せない点があるとすれば、金銭的に余裕がない中で素敵な製品が買えると思い込み、ようやく捻出したお金で残念な思いをする人がでる場合だ。
その悲しい可能性を除けば、個人的にはこの時計には価格相応、もしくはそれ以上の価値があるとも思う。そう思うことができない方も少なからずおられることは想像に難くないが、それはこの製品に対して価格にそぐわない期待を持たされたことに起因する、期待のコストパフォーマンスと現実のコストパフォーマンスとの間の落差から来るものではないだろうか。
筆者がこのブランドの肩を持っていると思われると思われるかもしれないが、そういうつもりはないし、アフィリエイトリンクこそ一応張っているものの、このブランドからお金をもらって書いているわけでもない。
一応日本のAmazonでも販売されているようなのでリンクを張っておくが(文字盤カラー違い)、なぜだかeBay価格とは4倍ほど価格差があるので、もしも購入してみようじゃ無いかという遊び心ある方がおられるのであれば、eBayで注文した方がいいのではとも思う。
このように価格差約40倍の腕時計に無理矢理ブレスをつけて遊んでみたり・・・(エンドリンクは綺麗にはまらないが)
冗談のわかる時計好きな人にジョークギフトとして送る、子供だましに甥っ子や姪っ子にプレゼントする(これを着用していたことで学校でいじめられたりしても困るが・・・)、クオーツウォッチを分解して楽しむ、時分秒針やケース、竜頭などのパーツを修理その他の用途用に活用するため(実は3針セットはeBayで安くなく、針だけで10ドル以上するものがざらにある)、高級時計イベントにこれをつけていってヒンシュクを買ってほくそ笑む、などいろいろな楽しみ方(?)があるはずだ。
なにはともあれもしこれを購入するようなことがあるのであれば、これが何であるかを完全に理解して購入すべきだろう。
(abcxyz)
コメント
https://ja.aliexpress.com/item/32832761583.html
追伸日本の企業が中国に進出するのもそのためです。