eBayで買ってみた:80年代のアナデジ、ピラニア印のPiratron P-5867レビュー


前回の「eBayで買ってみた」では落札したヴィンテージのセイコー・ファイブ、SKXY09をレビューしたが、今回はPiratronというフランス(?)に存在したブランドのアナデジウォッチ、P-5867をご紹介しよう。



中学校時代の腕時計


Piratron購入動機としては、おぼろげに中学校の頃にカシオAQ230A-1(下リンク)のようなアナデジを持っていた記憶があり、これに似た腕時計を購入するチャンスをかねがねうかがっていたことがある。



それもあり、フィンランドのヘルシンキからほど遠くない某町のヴィンテージショップでLorusブランド(セイコーのブランド)のアナデジV031-5020 NT(下写真)がジャンク品として60セントで販売されていたのを目にした時に即購入した。



購入して電池を入れたら(電池は3ユーロくらいしたが)、無事動き出したのだが、中学の頃に所有していたアナデジは、先のカシオAQ230A-1のように「上にアナログ、下にデジタル」だったのが、LorusのV031-5020 NTはと言えばその逆に「上にデジタル、下にアナログ」となっている。中学校時代の腕時計がよっぽど馴染んでいたのか、いつも着用時に上下を間違えたり、ふと手首に目をやると思った位置にデジタル表示が無くて混乱したりと、まあそうたいしたことではないのだが、不満が募った。心の奥では思い出の時計に近いものを望んでいたのだろう。

しかしわざわざカシオAQ230A-1を買うつもりもなかった。そちらもどこかしら「これじゃない感」があったし、どうせなら面白い中古のものを買おうと思っていたのだ。


eBayでアナデジ時計を探す日々


そんなこんなで前回eBayで落札したヴィンテージのセイコー・ファイブ、SKXY09に味を占め、eBayで面白いモノが無いか見てみた。



Image courtesy of eBay

すると出るわ出るわ、イカしたレトロなアナデジたち!その多くが1万円を超す値段となっているものも少なくないが・・・



(なお、eBayでアナデジを検索すると、このようなシチズンのアナデジ・テンプ(アナデジ+温度計)もよく現れるのだが、それらに関しては復刻モデル(上リンク)が出ているようなので、値段も値段だしわざわざeBayで購入するよりもAmazon.co.jpとかで買った方がリスクが少ないかもしれない。)


Image courtesy of eBay

そんななかでふと目に付いたこちらのPiratronは開始価格19.99ユーロ、送料4ユーロ。主な記述がドイツ語であるためか、誰も入札しない!


Image courtesy of Google Translate

筆者はドイツ語はできないが、Google翻訳で翻訳すると、「良好で完全に機能する状態 背中に加齢に伴う摩耗のわずかな兆候」。完動品!これはチャンスと入札したところ、意外にも他に入札相手がおらず、開始価格で落札できてしまった。

なお出品者はbrandlos2001


PIRATRON



落札したものをレビューする前に、Piratronというあまり耳にしないブランドについて、少し調べてみたので紹介しよう。名前からすると、「pirate」(海賊)+「-tron」(Wikitionaryによれば古代ギリシャ語から来ており、道具を意味する接尾語。電子機器名などによく使われる)という風にも思えるし、後述のWatchuseekフォーラムでもそう思っていた人のコメントがあるが、ロゴには怖そうな顔をした小さな魚の絵が記していることから、「piranha」(ピラニア)+「-tron」ということなのだろう。(なおWikipedia日本版の記述を鵜呑みにすると、ピラニアの名称はトゥピ語で「魚」を意味する「Pira」と「歯」を意味する「Ranha」を合わせたものとのことなので「Piratron」は「電子機器名っぽい響きの魚」という意味にならなくもない。)

Watchuseekフォーラムのスレッド「Piratron Translator watch」でReno氏が語るところによれば、フランスの(現存する)安価な腕時計ブランド「Pierre Lannier」の前身であるだろうとのこと。この根拠となるのはブログMontres Bonnes AffairesのPierre Lannierに関する投稿(フランス語)のようだ。これが正しいのであれば、Pierre Lannierが自社の歴史で語る「1977年」というのがPiratronの誕生時期であろうか。

どうやらPiratronとしては80年代に人気があったようで、LCD画面のものが主要製品だったよう。モデルによってはケースが日本製のものもあったようだし、Liquid Crystalのブログ投稿によれば、「Piratron 9 Melody FX」という曜日によって異なるメロディー+誕生日曲+クリスマス曲の流れるモデルもあったとのこと。この投稿に残されたZalmandia氏のコメントによればこのモデルが使用するモジュールは元々はTIMEXがカシオのCasio 82H108(これもやはりメロディー+誕生日曲+クリスマス曲が収録されている)に対抗するため外注したものだとのこと。

ほかにも電卓カメラのフラッシュなども作っていたよう。

記事執筆時点でeBayで見つかるPiratronの腕時計は、単純なモデルの完動品は1000円から、(落札品のように)より複雑そうなモデルの完動品は1万円程度。なので落札品はなかなか良い価格で手に入ったと思う。


ケース



さて、落札品はこんな感じ。

8角形の風防は、細かな傷はあるものの、今も比較的綺麗な状態。縁には黒くガスケットが見える。


裏はこんな感じ。

「背中に加齢に伴う摩耗のわずかな兆候」の記述通り、背面を見ると裏蓋の下が少しメッキが内側から剥がれているような部分が見られる。


右側にペンなどでプッシュするボタンと、押しボタン「DATA ST/STP」一つ。


左側には押しボタン二つ、上が「MODE」、下が「ALARM LP/RST」。


裏蓋には「P-5867 BATT TYPE UCAR V399 (3ATM WATER RESISTANT)」の表記。


中はこんな感じ。


「TAL 01/89」のステッカーからすると、1989年1月製造だろうか。


基盤には「TELE-ART」、「CHINA ONE JEWEL UNADJUSTED」と記されている。JOC.comで部分閲覧できる1987年4月14日のMartime NewsによればTele-Art Inc.はイギリス領バージン諸島のデジタル時計その他の製造社のよう。eBayで「Tele-Art」で検索すると、紙の手帳と電子手帳の先祖を合わせてパッケージ化したような「Tele-Art Executive Planner」などしかでてこないが、「"Tele-Art" watch」でGoogle検索すれば、Armitron、MICRONTA、Bowmarなどのブランドによるデジタル時計の基盤を作成している他、Tele-Art自社ブランドのデジタル時計も出していることがわかる。また、Which Watch Today...の投稿ではTele-ArtブランドのLEDウォッチが紹介されているが、こちらは基盤は香港のTele Art Ltd製となっている。Tele-Art Inc.とTele Art Ltd.が同じ会社かどうかは不明。


なお到着当初はアラームボタンを押しても反応が無かったが、裏蓋を開けてから閉めたら押せるようになった。謎。写真はアラームボタンを押す部分に問題が無いかと思って撮影したもの。

裏蓋の中にもガスケット。裏蓋を外すとデジタル表示部の現在時刻がリセットされる。


文字盤


文字盤は全体的にクリーム色。


アナログ部は金色のドルフィン型(Dauphine)で、時分針の二針。インデックスは12時、3時、6時、9時部分はバー状に盛り上がり(12時部はバーが2本並ぶ)、針と同様の金色ので上面が塗装してある。それ以外は各時に長い線、各分に短い線が引かれている。


12時インデックス下部には「(ピラニアの絵)Piratron」とロゴプリント。6時インデックス上部には「WATER RESIST」、「QUARTZ」のプリント。


アナログ部から一段上がった位置にはデジタル用の表記と、デジタル表示部の左右にそれぞれのボタンの役割を示すプリントが横向きに。そこから手前に傾斜があり、傾斜面に左上のボタンの役割がプリントされている。

デジタル表示部の上には「S M T W T F S」のプリント。これは、それぞれの文字プリントが曜日の頭文字を示し、その下のデジタル表示部に該当する曜日の下にバーが表示されることで何曜日かを示すもの。


デジタル表示部は標準ではシンプルに時間:分:秒と、曜日を示すバーが表示される。「MODE」ボタンを押すとストップウォッチモードに。「MODE」長押しで時刻が点滅し、アラームの時刻設定に(このとき曜日バーは全て表示されると共に一箇所だけ点滅するが、曜日毎にアラーム設定可能かは不明)。アラーム設定時にもう一度「MODE」を押すと現在時刻設定となる。どうやってアナログ部の針を動かすかはわからないが、今のところ現時刻と合っているので無理して壊したりしないよう今のところは探さないでおこう。

アラーム設定モードで設定をいじると自動的に画面一番右に「音波マーク」が現れ、アラーム設定がONになっていることを示すように。アラームのオンオフは「ALARM LP/RST」を押しながら、「DATE ST/STP」を押すことで、オフ>時報オン(左上にラッパのマーク表示)>時報とアラームオン>アラームのみオンとトグル。なお「ALARM」を押すだけだとアラームの設定された時刻が表示される。「ALARM」を押しながら「MODE」を押すと24時間/12時間表示切り替え。12時間表示の際には画面右もしくは左下に「A」もしくは「P」と表示される(モードによって表示位置が異なる)。

「DATE」を押した状態では日付が表示される。押しながら「ALARM」を押すと「月」と「日」の並びが変わる。例えば12月4日の場合、「DATE」ボタンを押して「12 4」が表示されるときに「ALARM」ボタンを押すと、「4 12」と変わる。これは国によって月日のどちらが先に記されるかが異なるためだろう。例えば私の住むフィンランドでも2019年12月4日は「4.12.2019」と記される。

リセットボタンを押すとどうなるかは知らない。


ストラップ



メタルブレスレットはこんな感じ。


金属を曲げて作られた安っぽいものではあるのだが。


幅広のメタルの隣接する部分からは、奥まった部分のメタル部分が見える。ただの平凡な安いメタルブレスレットに奥行きが感じられて好きだ。

届いた当初は汚れがかなり詰まっていて綺麗にするのが大変だった。しかも元の所有者は料理人なのか、お湯で汚れを取ろうとすると調理場の油のような臭いがした。

ぱっと見奥まった部分は黄みがかっているように見えるが、これが元々そうなのか、それとも汚れが溜まってそう見えるのかは完全に綺麗にできないので謎。


まとめ



自分の判る言語で詳細が書いてあるものだけでなく、出品タイトルを除いてドイツ語でしか記述が無かったために安価に落札することができた。英語での記述もあればもしかしたらもっと高値で取引されたのでは無いかとも思う。これは日本からeBayに出品しようという人にとっても参考になる話かもしれない。

ただ注意としては、Google翻訳は完全に信用できるものでは無いと言うことがある。たまに肯定的な文章を否定に訳したり(原文「AはBである」>訳文「AはBではない」)、その逆がおきたり、途中の文章が略されたりといったことも起こる。(Google翻訳/機械翻訳に関して興味のある方は、数年前にFUZEで執筆した『「他言語を学ばなくてもいい日」は来ない。言語と機械翻訳を改めて考えてみる | アルゴリズム編』もどうぞ。)

なので特にeBayという環境では、翻訳を介しての購入には、安く落札できる可能性と共に、記述言語の知識が無ければ翻訳内容の正誤性の判断が難しい、というリスクが伴うと言えるだろう。

何はともあれ理想のアナデジが手に入って良かった。


Source: Wikitionary, Wikipedia日本版, Watchuseek, Montres Bonnes Affaires, Liquid Crystal, JOC.com, Google, Which Watch Today

(abcxyz)

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