ワイヤレス・オーバーイヤー・耳掛け・オープンタイプ・ヘッドホン…そうよんでも差し支えないだろうか。なんだか変な呼び方となってしまったが、これはクールでスマートで、まさに次世代のヘッドホン。Human Inc.によるSound Headphonesだ。
ワイヤレスイヤフォンであるAppleのAirPodsの発表があったのはWikipediaによれば2016年9月7日。その同月、2016年9月22日にIndiegogoでキャンペーンを開始し成功させている。
実にそれから3年近くの時を経て製品化されたSound Headphonesを見ていこう。
製品レビューが気になる方は読み飛ばす項目
出資から手に入れるまでの経緯
(公式の動画はなぜかもう取り下げられているのでYouTubeのTwizz Techから。本投稿と合わせてご覧になれば製品版とはデザインや機能が異なっていることが判るだろう)
私は2016年当時このキャンペーンに出資し、それがようやく製品として手元に届いた。とはいうものの、当時私はこのキャンペーンに大きな不信感を抱いていた。
製品のプロモーション動画は美しいものの、実際の製品とそれを作る過程はキャンペーンページからはよく判らず、プロジェクトアップデートでも最初のうちは製造プロセスやプロトタイプの写真はほぼゼロで、ただHuman Inc.の人たちがカメラに向かって話すだけの内容と信憑性に欠いたものだったからだ。これに関して私はHuman Inc.と数度のメールのやりとりをしている。回答はどれも丁寧なものだったが、どれも私の不安を払拭するには十分なものではなかった。そのため私は2017年2月頃に出資を取りやめることにしたのだ…。
Indiegogoではキャンペーンにお気に入りマークをつけると出資せずともプロジェクトアップデートが届く。そのためその後も私の元にはHuman Inc.からのアップデートが届いていた。当初の製品発送予定は2017年7~10月だったが、その期限には間に合わず。しかし徐々に彼らのアップデートからは完成に向けたプロセスに入っていく様子が伺え、「ああ、ちゃんとしたキャンペーンではあったんだな(もしくは当初はただ絵に描いた餅だったキャンペーンがバッカーからの資金で実現できたということなんだろうな)」なんて思っていたのだ。
だがなんだか私の元にも発送に関するメールが届き、よくよくIndiegogoの出資ページを確認してみると、私の出資はキャンセル扱いになっていて、「PayPalに返金済み」と書かれていた。だが私のPayPalアカウントを3年遡ってみてもそんな内容の返金は無い。せっかくなのでPayPalとIndiegogoとHuman Inc.にメールを送り返金がなされていないことを両者に通知し、どうせ製品ができ発送となるのだからと出資キャンセルを無かったことにしてもらい、製品を発送してもらった。
なお追加情報として、2018年10月にMS Poweruserが伝えるところによれば、MicrosoftはHuman Inc.に出資もしているようだ。
開封
キューブ状の箱に上にツマミが。
中にまず出てくるのがヘッドホン。
その下に充電ドック。ケーブルはUSB-Cとなっている。
なんだかナスのへたみたいなキャリングケース的なもの。ヘッドホン同士が磁石でくっつくので、これに入れていればカバンの中でバラバラにならないと言うことか。出すときは豆柴みたいに/枝豆みたいにケースを押して中からヘッドホンを押し出す。
後はUSB-C電源アダプタ(日米式プラグ)と、フィッティング調整用の部分が入っている。
ヘッドホン
ボタンの類いは一切無いデザイン。充電や接続を示すLEDの他は、マイクの穴とスピーカーとしての穴、充電端子くらいしか見当たらない。
ヘッドホンの左右は磁石により引っ付いており、両者を離すことで電源がオンとなる。電源オンからバッテリーレベル読み上げまで約20秒、スマホへの接続までは約30秒掛かる。充電ドックに置いた状態から接続までは10秒以内。
くっつけることで30秒後に自動的にオフになる。
充電はドックにこういう風に置く。こちらも磁石で引っ付くようになっている。
付け方・つけ心地
ヘッドホンとして使用する際には、耳かけ式のイヤホンの用に内側の可動部分を引き出し、それで外耳を挟み込む。少なくとも私の耳の形状では挟んで痛いこともないし、不快感も無い。
なお、耳の形状に合わせて耳にかける部分(Fit Attachment、シリコンの差し込み口により本体と接続)と、耳の内側部分に当たるスポンジ部(Fit Pad、マグネットで本体と合体)が取り替え可能になっている。付属するのはそれぞれ2種で、計4通りのコンビネーションがある。左右で耳の形状に違いがあることもあるので気に入る形状を見つけよう。
ただ、人によってはこのスウィートスポットを探すのが難しいかもしれない。私の場合、耳にかける部分を耳の付け根前方に合わせてフィットさせると、耳の付け根中央部が痛くなる(オンイヤーヘッドホンを長時間つけた場合も私はこの部分が痛くなる)。そのため、すこし耳の前方に余裕を持たせて挟むと丁度よく、痛みも無く、頭を動かすと多少動く感じはあるが、ずれていくような感覚では無く綺麗にフィットしてくれる。
一応サポートページにはフィットのさせ方を始め、髪が長い人の場合、メガネをつけている人の場合、などのためのフィッティング動画も用意されている。
「頭を動かすと多少動く」というのは意図された設計だそうで、この「遊び」があるために全ての耳にある程度心地よくフィットできるデザインなのかもしれない。耳掛け式のような構造ではあるが、実際にはヘッドホンの耳掛け部と、内側のスポンジ側で外耳を挟み込むようにして保持するようになっている。
しかしそれもあり、歩くとヘッドホンの揺れが耳の付け根を刺激(付け根部分を軸に外耳が動くため)、そのため不快感を感じた。試しては無いが、ランニングなどすれば痛くなりそうな気がする。
掃除はサポートページによれば乾いたマイクロファイバーで拭けとのこと。
コントロール
ヘッドホンの外側部分はタッチパネルとなっている。
タッチコントロールは左右どちらでも使用可能で、タップで再生/停止、前向きスワイプで次の曲、後ろ向きスワイプで前の曲、上向きスワイプでボリュームアップ、下向きスワイプでボリュームダウン。電話コントロールは2度タップで電話に出る/電話を切る、後ろ向きスワイプで掛かってきた電話を拒否。また、電話状態で無い場合は2度タップでデジタルアシスタントを呼び起こすことができる。
タッチコントロールは感度良く、的確に読み取ってくれる。その一方で、ヘッドホン装着時や耳から取り外す際には外側を触らねばならないのでそれがコントロールとして読み取られてしまうことがあった。実際にはタッチコントロールの読取り部は中央付近であり、外周付近を触れば感知されないので慣れれば問題無いかもしれない。
初回起動時はすでにペアリング待ち状態となるが、両ヘッドホン外側を同時にタッチ&ホールド(7秒くらい)することでペアリングモードとなる。ペアリングモードとなると「You are ready to pair」という音声が流れる。アプリからペアリングモードにする事も可能。
周囲の音を聞き取りたい場合は「Engage」(エンゲージ)というモードが使える。これはヘッドホンの片側をタッチしっぱなしにすることで、音源ボリュームをゼロにすると共に、外の音を増幅して聴くことができるというもの。このモードでは自分の声も含めて外の音が増幅される。そこまで綺麗に増幅するわけでは無いが、咄嗟に「今の何の音だ?」なんて状況で外で何が起きているのか聞くにはいいかもしれない。
これとは別に専用アプリ(Android/iOS現在どちらもベータ版)を用いることで、外の音を増幅する状態を保ちつつ、音源も普通に再生する「Blend Mode」(ブレンドモード)が存在する。そちらはアプリの方から有効化できる。
ヘッドホン同士を頭一つ分引き離すと、右側のみで音楽が再生され、左側で再生が停止する。これは音源を流すデバイスの位置とは関係ないようで、つまり右ヘッドホンが「親機」ということかもしれない。どうせ左右で分けれるのだから、友達と一緒に音楽をヘッドホンで聴く際などに両方から流せるようであればなお良かったかもしれない。頭をくっつけなければ聞こえない状況はそれでまた(ヘッドバンドやケーブルの制約によりそうしなければ音楽を共有することができなかった過去のヘッドホンやイヤホンの時代のように)人を繋げる役割とも言えるかもしれないが…。音楽を共有したい場合は後述のスピーカーモードの方が意味があるかもしれない。
音質
音質に関して専門家ではないので参考程度に聞いて欲しいが、Sound Headphonesは低音が強調される感じがある。Sennheiser HD598と比較してもそう感じるし、HD598の方が全体的に良い意味でまんべんなく聞こえる感じ。だからといってSound Headphonesの音質が悪いと感じることは無く、普通に悪くない(音質に関してこんな説明しかできなくて申し訳ないが)。
耳を全体的に覆う機構ではあるが、一応半オープン型と言っても良いだろうし、加えてスピーカー機能もついていることもあり、音漏れに関してはオープン型であるHD598よりも漏れる感じだ。なので公共交通機関などの人口密集地ではあまり大音量で流すべきでは無いだろう。
また、専用アプリを用いることで、ヘッドホン同士をくっつけた状態でこれをBluetoothスピーカーとすることもできる。
だがBluetoothスピーカーとしての音質はHuawei P20 Proの方が断然良い。Huawei P20 Proの方が音域が広く、特にこのサイズのデバイスから聞こえてくるのが驚きなほど低音まで流してくれるが、Sound Headphonesからは低音はあまり聴くことができない。スピーカーモードでは低音があまり聞こえないのとは反対にヘッドホンとしての使用ではちゃんと低音が聞こえるのはしょうがないのかもしれない。まあおまけ機能と言えるだろう。
翻訳機能
専用アプリからは翻訳機能を使うことができるが、その機能はイマイチ。
音声識別があまり上手くなく、特に日本語が上手く認識されていないし、日本語への翻訳もおかしい部分があった。日本語の読み上げは何故か英語訛りっぽい変な訛りがある。
だが翻訳機能には以下のような複数のモードが用意されている。
「Quick Translate」ある言語から別言語へ即座に翻訳する機能
「Group Translate」複数のヘッドホンユーザーと翻訳を介したグループ会話
「Speaker Translate」スピーカーモードで2言語間翻訳
対応言語は英語、アラビア語、ドイツ語、スペイン語、フランス語、イタリア語、日本語、ポルトガル語、ロシア語、「Chinese Simplified」(簡体字中国語)、「Chinese Traditional」(繁体字中国語)となっている。中国語には詳しくないが、音声で翻訳するのに簡体字と繁体字で分けるのってなんだろう。Mandarin Chineseと Cantoneseとかなら判るが…。
その他諸々~現時点で未搭載の機能も
いまだAndroid/iOSアプリはベータ段階で、一部に「Feature coming soon!」の表記が見られる。
また、詳細スペックも不明で、外箱の表記ではこれまで説明してきた機能も大雑把に説明されているが、通常見られるようなバッテリー容量やBluetoothバージョンなどの詳細は記されていない。
バッテリーは「with a large battery to power your day」という曖昧な表記のみ。Indiegogoキャンペーン時にはバッテリーは12時間以上としていたが、サポートページを見る限りでは、音量50%では9時間バッテリーが持ち、280mAhのバッテリーが搭載されているとしている。満充電には2時間かかり、30分の充電では~1.5時間のバッテリーとなる。
キャンペーン時には他に、音域は20~20KHz、ノイズアイソレーション機能も搭載し、Bluetoothは4.1としていた。まだ動画に見られるトラッキング機能や、ノイズキャンセリング機能と思われる「Fade」は実装されていない。
サポートページを見ると、音域は20Hz – 20KHzとキャンペーン時の宣伝通り、Bluetoothバージョンは4.2、コーデックサポートはAACとなっている。翻訳言語に関してはキャンペーン時は「現在のところ8カ国語対応」としていたが、外箱では13カ国語対応と増えている。
まあ製品化に3年も掛かれば詳細も色々変わっているだろうが、基本の機能は確かに作られているものの、やっぱり詳細部が気になるし、サポートページにひっそりとしか記していないのは残念。まあ確かに宣伝通りのバッテリーではないが(そしてノイズキャンセリング機能もついてくれることを切に願うが)、ちゃんとワイヤレスヘッドフォンとしては完成品を届けることができたのだからその辺も堂々と公式サイトに記してくれれば良いのに。
まとめ
2017年半ばという発送予定を2年超過し、キャンペーンから3年で製品化。クラウドファンディングに遅れはつきものというのは紛れもない事実であろう。計画見込みが甘すぎたのか、製造に思わぬ困難に直面したのか、計画通りに事を運べるのは一部のキャンペーンのみだ。それでもこれは褒められたものではない。
Sound Headphonesのキャンペーンに関しては、私の紆余曲折を経た出資~キャンセル~キャンセル覆しも褒められたものではないだろうが、やはりキャンペーンから資金調達後暫くはHuman Inc.そのものが極めて怪しく、プロジェクトの実在すら定かでは無かったという点においては今も断言できることだ。その怪しさを良い意味で裏切り、完成された製品を届けたHuman Inc.には拍手を送りたい。
製品のかっこよさ、そして、AirPodsのような機能性。まさに未来的なヘッドホンだ。
個人的に「耳の穴に突っ込むのは綿棒だけ」(綿棒も入れない方が良いと言われるが)という人であり、インナーイヤーのイヤホンには抵抗感を感じると共に、実際使用すると不快感を感じる。そのためこれまでもオンイヤー、もしくはオーバーイヤーのヘッドホンを中心に所有してきたし、耳を塞がないことが売りのAmbieもレビューした。
日常使いでお気に入りはオンイヤー・オープン式のKoss Porta Proだったが、ケーブル断線により、同じくオンイヤー・オープン式のSony MDR-S40を購入、使用していた。そこでもやはり煩わしさはケーブルにあり、また現在メインで使用するスマホHuawei P20 Proにはヘッドホンジャックが無いこともありしばらくMDR-S40も使用していなかった。
そんななかでようやく3年の時を超えやってきたSound Headphonesはこれらを十二分に置き換える存在だろう。
前述のKossやSonyのヘッドホンと同じく小ぶりであり、なおかつケーブルもヘッドバンド部も無いため全体的なシルエットとしてはより小さい。ヘッドバンドがないので髪が絡まることもないし、音質は悪くない。音がダダ漏れなのはそれらと同じ欠点ではあるが、同時に外の音が聞ける安心感もあるし、増幅機能もある。
オンイヤー式のヘッドホンであれば耳が圧迫されて頭が痛くなったりするが、これは耳掛け的な仕組みのためそういうこともない(少なくとも2,3時間つけっぱなしでいても痛くならなかった)。
充電ドックもドック部は十分小さいが、ケーブルがドックから出ているのは残念。特にバッテリーが9時間となれば旅行に行くにはドックも運ぶ必要があり、ヘッドホンとして使用する際にはワイヤレスの利点を満喫できるが、カバンの中ではドックのケーブル問題が出てきてしまう。できることならドックにUSB-Cポートがあいていて欲しかった、そうであれば手持ちのVOLTAケーブルを使用できるので。
あとはノイズキャンセリング機能さえ付加されれば私の使用法には完璧だ。
(abcxyz)
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