昨年末に日本上陸を果たしたドイツの首都ベルリンの比較的若い時計メーカー、Lilienthal Berlin(リリエンタル・ベルリン)。今回の記事では、考え抜かれたデザインだけでなく、時計を「ドイツ製」とすることへのこだわりも追求し、なおかつ価格もお手頃な同社のファーストコレクション「L1」をご紹介させていただく。
Lilienthal Berlin
Lilienthal Berlinは2016年に同社初のモデルとなる「L1」を発表。そう、まだ生まれて間もない若い時計会社だ。しかし若いからと言って同社の実績を甘く見てはならない。同社は2017年にはiFデザインアワード、グリーンプロダクトアワードを受賞しているほか、2018年に入ってからはGerman Design Awardを受賞している。
Lilienthal Berlinのフィロソフィーは「エコロジーで環境が持続可能な状況下でのみ製造すること」。なるべく環境に配慮し、生産に関してもできるだけドイツ国内でできるようにとの努力が行われている。デザインがドイツで行われているのは当然として、時計部の製造、組み立て、品質管理に化粧箱の製造もドイツで行われているほか、ストラップに用いられるレザーもなんとドイツ産の牛革が使われている。
L1
さっそくL1を見ていこう。まずはボックスの開封から。
ブランド名の刻印がされた外箱もオシャレ。白いケースに切り込みが入れられており、下の黒いボックスが隠れ見える。
黒いボックスも内側にはブランドがワンポイントカラーとしてスモールセコンドに用いている「セレニティー・ブルー」色が見える。Lilienthal Berlinが「静寂の青」と語るこの色は、日の出直前と日の入り直後、空が青色に染まる瞬間、忙しない都会の中に一瞬現れる静寂のひととき「Blaue Stunde」(青い時間)を表すものだ。(なおフィンランド語ではこれは、青い瞬間「sininen hetki」と言う。)
L1はケースのカラーがシルバーとゴールドの2種類、ダイアルのカラーはホワイト、ブルー、ブラックの3種類、バンドは10種類の豊富な色の組み合わせから注文することができるようになっている。なおケースカラーはダイアルに記されているインデックスと、時分針にも反映される。今回レビュー用に提供戴いたモデルはケース「シルバー」、ダイアル「ブルー」、バンド「グレー」のモデルだ。
取扱説明書も面白くて、時計を「ベルリンからやってきたあなたの新しいミューズ」として、時計との素敵な関係が築けるようにする方法を記した恋愛指南風のものとなっている。なお私はフィンランド在住であるため写真では取扱説明書が英語版となっているが、日本で注文された商品には日本語で記された取り扱い説明書が付属しているので安心だ。
ケース
ケースのシンプルな美しさはLilienthal Berlinの特徴とも言えよう。316Lステンレススチール製の無駄を排したケース形状、そしてケース内に埋め込まれた竜頭が、全体に統一感を与えている。
なお風防はサファイア硬化加工がなされたミネラルガラスとのことなので、サファイアクリスタルほど傷つきにくいわけではないだろうが(手頃な価格帯であることからもサファイアクリスタル風防にするのは難しいであろう)、Lilienthal Berlinは同社ウェブサイトで「意図的に、相当な負荷を加えて傷つけない限り、傷つくことは、ほぼ」ないとしている。
特徴的でありながらも派手に目立つことのない竜頭は、ベルリンのアレキサンダー広場にあるウーラニアー世界時計がインスピレーション基となっている。
Credit: Hedavid, CC BY-SA 3.0
参考までに、こちらがウーラニアー世界時計の写真だ。この竜頭のどこがウーラニアー世界時計的なのかと思われるかもしれないが、この世界時計は上から見るとこの竜頭のように多角形をしており、どちらも同じく回転するわけだ。
特に3時方向に大きく突き出た竜頭を持つ時計では、手首を曲げたときに竜頭が手の甲に当たることがある。また、竜頭が突き出ているとそれだけ衣類などに引っかかる可能性も大きい。そして竜頭が引っかかり引き出されてしまうと、時刻が止まってしまう上に時計内部に水が入ってしまう可能性も出てくる。この点竜頭が飛び出ていないL1はケースに優雅に竜頭を入れ込むことでこの問題を解決している。
竜頭はケース裏面から引き出すことになる。こちらもケースが竜頭の突起に向かい滑らかな傾斜を描いており、引っかかりがないよう工夫されている。
性別に関わらず着用しやすい37.5mmの直径、7.5mmという薄めのケース厚、50グラムと軽量な重量もつけ心地の良さに貢献している。
裏面は3つのネジで留められ、同心円状にヘアライン仕上げがなされた裏蓋。素材としての統一感は出しながらも、サンドブラスト・マット加工のケースに囲まれた裏蓋のテクスチャの違いも美しい。なおこのモデルは5気圧の耐水性を持つ。
使用されているムーブメントはRondaのクオーツ製。スリムテックラインから小型・薄型で、秒針が時分針から離れた位置についたスモールセコンド仕様の1064が採用されている。Ronda社のウェブサイトによればバッテリーは25ヶ月ほど持つようだ。
文字盤
シンプルながらも見やすい文字盤は、外周に分の表記と1分刻みの記し。そして時針の先に近い円周を描くようにして3時、6時、9時の表記がなされている。時針と分針それぞれの針に近い位置に対応した情報が記してあるというわけだ。インデックスは二分されていた「東西ベルリンの道路標識に使用されていたタイポグラフィ」とのこと。
この外周部により情報量・文字密度が多いこと、ケース色とインデックス、そして針の色が同色なこともあって、外周から中に行くにつれてケース色の密度が変化するかのようなグラデーションにも似た色彩効果をだしているのも面白い(単一のケース色、密に存在する同色の分インデックス部、そしてよりまばらな時インデックス部。外周部はシルバー色が面積の多くを占めているが、中心に行くに従い比率が下がる)。これは同じく同色の時短針の可視性を高める役にも立っているだろう。
時分針は傾斜を帯びたペンシル型で、中抜きが施されている。時間を表すインデックスの情報量が少ないこともあり、中抜きがなくとも時刻確認に困ることはないであろうが、3,9,6時と12時方向に記されたロゴに針が重なるときに立体感が感じられる。
6時部分(文字盤の表記的には「30分部分」といった方が正しいだろうが)には小さいながらもしっかりと「MADE IN GERMANY」の記し。
インデックスやロゴは近くで見てようやくわかる程度にであるが立体的な印刷となっている。加えて、時インデックスの間を繋ぐように円が彫られている他、スモールセコンド部分は円状に一段下がり、その内側には裸眼で確認するのが難しいほど細やかな線が同心円状に刻まれたコンセントリック加工となっている。
そのスモールセコンドは外箱でも使用されていたLilienthal Berlinのシグニチャーカラーであるセレニティー・ブルー。ケースの色と文字盤の色の2色で構成された時計の中にワンポイントの色合いを添えている。
バンド
ケースから軽いカーブを描き伸びたラグに取り付けられたバンドはクイックリリース式で、他のバンドと簡単に交換することができる。だがLilienthal Berlinは時計に付属しているバンドにも深いこだわりを持っている。
安価なマイクロブランドはただ単に「本革」のレザーを使っているということ以外詳細を明らかにしないところが多い。しかし環境に配慮すると共にメイド・イン・ジャーマニーへの強いこだわりがあるLilienthal Berlinは、ドイツ産の牛革を使用するに留まらず、植物なめしにより環境への配慮も行っている。(何度か書いているが、より安価な「クロムなめし」と異なり植物由来のなめしの方が自然に優しい。)
バンド裏にもドイツでハンドクラフトされたこと、自然な「なめし」方法で製造されたことが記されている。
表面にはバンドと同色の糸が主に用いられているが、クイックリリース/ラグに近い点はセレニティー・ブルー、そして裏面も全てセレニティー・ブルー色の糸で縫われているという点も細やかなデザインコンセプトの統一感がでていて美しい。
バックルも小ぶりで時計の軽量さに一躍買っているだろう。ただ、バックルのベルトに接続されている棒状部分(バックルを「D」文字に例えれば左の縦線部分。実はこの部分はバネ棒となっており取り外しも可能だ)の太さに比較し、バックルのピン部分のループが大きめに設計されている。そのため、時計を外した状態(バックルを外した状態)ではピン部分に遊びが生じ、バックルの「D」文字右中央部分にあるピンが収まるべき凹みからはみ出ることがある。時計を着用する際には綺麗に凹みの中に収まるのでこれは使用時には問題ではないのだが、時計を外した状態で時計を持ち運ぼうとすると、この遊びのためにピンが自由に動いてしまい、バックルとぶつかり小さく「チリ、チリ」と音を立てる。レザー自体も柔軟な素材であるためピン部分がここまで左右に遊びがある必要性はないはずであり、ピンループをもう少し小さく設計してもよかったのではないかとも思う。
まとめ
実はLilienthal Berlinのロゴも「L」と「1」という形で構成されている。このことからもデビューモデルであり、シグニチャーモデルでもある「L1」への意気込みが伝わってくる。
ブランドのシグニチャーカラーであるセレニティー・ブルーを適所にさりげなく使用している点や、薄く小さな文字盤の中にシンプルながらも立体感が感じられる点など、デザインは細かいところまで考えられており、全体的な調和がとれた美しい形となっている。
ドイツ製であるというこだわりも特筆すべき点だ。もちろん製造に関わる全ての工程をドイツ国内で済ませるわけにはいかず、ケース・針・バンドの止め具はアジアから、ムーブメントは隣国スイスから取り寄せてはいる。それでも、可能な限り全てをドイツで作りあげ、組み立てるという、ドイツ製であることへのこだわりは強く感じることができる。特にバンドに用いられるレザーもドイツ産でしかも植物なめし、化粧箱までドイツで行うというのは感心する。
ウーラニアー世界時計や東西ベルリンの道路標識のタイポグラフィなど、あからさまでなく、さりげないベルリンへの言及は、東西に分け隔てられた歴史を乗り越えて存在するベルリンという街を愛するLilienthal Berlinにふさわしい。
2万円台前半と比較的手頃な価格の腕時計ながら、完成されたデザインの満足感を感じることのできる、美しいタイムピースだと言えよう。
Lilienthal Berlinは日本では今回レビューしたL1の他にもUrbania、Urbania All Black、Urbania All Blueなどのモデルも展開している。
また、Lilienthal Berlinは2017年秋より「アジア諸国への最初の一歩」として日本を選び進出することとなった。Lilienthal Berlinの社長であるジャック・コルマンは、同社の日本への進出を「今後の将来にとって非常に重要なステップ」になると語っている。今後は欧州でしか取り扱っていないモデルも日本で随時発売していくとのことで同社の今後にも期待が高まるところだ。
最後にこの場をお借りして、今回レビューする機会を与えてくれたLilienthal Berlinに感謝したい。
Source: Lilienthal Berlin
(abcxyz)
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