視覚障害者にも晴眼者にも便利な革新的点字スマートウォッチDot Watch

Image credit: Dot Incorporation

視覚障害者用の時計には、文字盤の風防を開けて針を指で触れるようになっているものや、音で時刻を知らせてくれるもの、しばらく前には磁石とメタルボールで時を知らせるスタイリッシュなEONE社のBRADLEYなどもあった。

だが視覚に障害のない晴眼者向けの腕時計の方はスマートフォンなどと連携可能な「スマートウォッチ」の登場など進歩が見られる一方で、視覚障害者用にはそのようなデバイスはこれまで見受けられなかった。フィーチャーフォンからスマートフォンへの進化は、メッセージ読み上げ機能(スクリーンリーダー)や、音声アシスタントアプリの登場で視覚障害者も晴眼者も共に技術進歩の恩恵をこうむることができたにも関わらず。

そんななか登場したのがDot Incorporationの「Dot Watch」。これはなんと一般的なディスプレイの代わりに点字を表示することのできる点字ディスプレイがついたスマートウォッチなのだ。

Dot Watch


Image credit: Dot Incorporation

点字(ブライユ/Braille)を学んだことのない晴眼者にとってDot Watchにどんな意味があるのかと思われるかもしれない。だが、視覚を使わずに使用することが可能だと言うことには大きな利点があると私は断言しよう。また、後述するが、これとは別にディスレクシアにとっても展示が有用である可能性も存在するので、その点に置いても晴眼者にとり有用である可能性を秘めている。

スマートウォッチは確かに便利ではあるが、通知を確認するのに手元をチラチラと見るという行為は、他人と時間を過ごしている時には失礼だ。単に時間を確認するための手元のチラ見ですら失礼なのに、通知が来る度にぶるっと震える手元を何度も見やるのは失礼極まりない。それでも確認しないといけない通知である可能性を考えながら、相手の視線の隙を盗んで…

そんな馬鹿げたことをしなくてもDot Watchであれば手元に目をやることなく通知確認が可能だし、暗闇の中でも明かりをつけることなしに確認できるのだ。しかもディスプレイを搭載していないためにバッテリーは7~10日もつという点はスマートウォッチとして優れている。従来のスマートウォッチではバッテリーを消費するにもかかわらず、デザインの取捨選択の過程でバッテリーを長持ちさせるためにそぎ落とすことができなかったディスプレイを取り払うことができたのは、点字式のスマートウォッチだからこそ可能だった点だ。



スマートフォンなしでも単体での時間表示(点字で示すことも可能だし、画面左の点は1つ1時間、右は1つ5分、といった表示も可能)、タイマー、ストップウォッチ、バッテリー残量などの機能を使うことができるが、スマートフォンとBluetoothで接続し、専用アプリを用いることで、通知メッセージを読んだり、誰から掛かってきた電話かをDot Watchで確認も可能だ。点字に慣れていない晴眼者向けに、点字を学習するための機能もあるのは、これを利用しようという晴眼者には嬉しいところだ。

その小さいサイズのため点字は一度に4文字しか表示できないが、ボタンを押しての表示文字スクロールの他、点字に慣れている人には表示文字の自動スクロールも可能である。(なお、省略形などが加わったgrade two Brailleを使う場合は一度に表示できるのは4文字でも情報量はそれ以上とすることができる。)

公式サイトの方では未だ更新されていないが、Dot Incorporationによれば現在すでにサポートされている言語は英語、韓国語、中国語、ベトナム語、ドイツ語、スペイン語、フランス語、ロシア語となっている。それらの言語がすでにできるという方は、対応言語の点字を覚えるだけで画面を見ることなしに通知を見ることが出来るというわけ。また、英語ではUEB (Unified English Braille)、EBAE (English Braille American Edition)、SEB (Standard English Braille)の3種類に対応するほか、通常の点字の他にも短縮化された点字「contracted braille (grade two braille)」にも対応している。近々サポート予定の言語としてはチェコ語が挙げられている。

現在のところは日本語の点字には対応しておらず、今現在のところは日本語の点字対応への難しさから日本語サポート作業は保留中ではある。しかしDot Incorporationは日本語も将来的には対応したいとしているため、日本語のみでこれを使用するという人にとっても注目に値するデバイスだと私は考える。将来これを使う日に備えて今から点字を学ぶのも悪くないだろう。

もちろん、現在日本語に対応していないことが日本でこれを利用しようという人にとって問題になるのは当然だし、そのためにこのようなデバイスが多くの人にとり現状意味をなさないというのも事実だろう。だがこのようなデバイスの登場により、晴眼者もまた点字を学び、また普段の生活の中で私たちが気づかないところに数多く存在する点字情報を知ることや、点字で記されたコンテンツの少なさに問題意識を持つことができるだろう。

購入はDot Incorporationのサイトの他、Amazon.com/.fr/.de/.co.uk/、eBayから可能なほか、同社のFacebookページからメッセージのやりとりを介して購入することも可能となっている。

Dot Mini


Dot Watchは2016年にプロトタイプが作成され、2017年にかけてのベータテストを経て製品化されたもの。iF Design Award 2016を始めとし、数々の賞も受賞している。2017年末にはアメリカでもローンチしている。しかしDot Incorporationは同社の製品による革新を今年も続けている。それが今年発表した「Dot Mini」だ。



これは従来の巨大であり価格も数十万円するようなディスプレイを置き換えることのできる小型デバイスだ(従来のものがどのようなものかは、Netflixで配信されているテレビシリーズ『デアデビル』の主人公が時折使用しているので見てみるとDot Miniと比較ができるだろう)。

これは点字版の電子書籍リーダーとも言えるデバイスで、テキストファイル、Eブック、ウェブサイトなどからの情報を点字で表示できる。マイクやスピーカー、ヘッドフォンやMicro USB、Micro HDMIポートにSD Card挿入口まであり、テキストの読み上げにも対応している。

価格は490ドルと従来のものよりもだいぶ安価。視覚障害者向けの教材やコンテンツを点字で印刷する会社が少ない中で、このような手頃な価格の電子点字デバイスの登場は、教育の現場でも、生活を豊かにする上でも重要な存在だろう。

点字とディスレクシア


前述した点字とディスレクシアについて。ディスレクシアを持つ人向けに点字が有効か、個人的にこの点に関心があるのだが、その可能性を探る研究が十分になされていない分野のようだ(視覚障害者のディスレクシアもあるようだが)。

ディスレクシア(dyslexia)は視覚の障害ではないが、文字の読み書きに困難のある障害だ。

幾らかオンラインで読むことのできるディスレクシアと点字に関する記述を調べてみたが、「ディスレクシアは視覚障害ではなく、脳の音韻言語に関する部分と関連する障害であり点字は助けにならない」と短絡的に結論づけるものが多かった。また、同じ結論に達する記事の中には「脳の音韻部位に関連するものであるので、ディスレクシアを持つ人は会話やその反応も遅い」という誤った記述も見られたことも指摘しておこう。

ディスレクシアは単に読み書きに対する困難の障害であり、またこの障害は文字言語によらず(例えばアルファベット言語を母語としディスレクシアである人物は、漢字を学んでも同じくディスレクシアである)影響を与える学習障害ではある。しかしこれは知的障害ではなく、読み書き以外の分野に置いてはディスレクシアは影響を与えないとされる。そのため私の知り合いにもディスレクシアを持つが凄い速度でまくし立てるように話す人物などもいるし、有名なところでは俳優のトム・クルーズもディスレクシアを持っていると語っている。ディスレクシアは視覚を通じた文字認識の問題であり、会話や思考には影響を与えていないであろうことはご理解戴けると思う。

ということは点字を用いることで、ディスレクシアの人であっても触覚を通じることで音によらない記述言語を読み取れるという可能性はあると考えるのは理が通っていそうだ。

これに関する研究はゼロではない。古い研究ではあるが1975年のLois E. McCoyの研究では、重度のディスレクシアを持った少女が点字を学び、点字教材が読めるようになったとしている。

また、発達性ディスレクシア(developmental dyslexia、以下DD)とそうでない子供を対象にした2018年のHayek Mらの研究では、DDを持った子供とそうでない子供に目隠しをして点字を触らせ、後に触るものと同じかどうか当てさせるという実験を行っている。この実験では最初こそDDを持つ子供は読み取り速度も正確性も低かったが、16回の実験中、徐々に読み取り速度と正確性は上がり、DDを持たない子供との正確性のギャップはなくなったとしている。

これらのことからは、ディスレクシアにとって点字が有用である可能性はあると言い切れるだろう。この点は是非ともより詳しい研究がなされることが望ましい。

また、ここでディスレクシアを持つ人の学習に展示が効果的であると言い切るつもりもないが、もしこれが証明されれば、Dot Incorporationの作るようなデバイスがもしかしたらディスレクシアを持つ晴眼者にも活用される可能性が出てくることは指摘したい。

もちろん、ディスレクシアにとって点字が有用であるとされたとしても、現状問題としては点字の教材、点字のコンテンツが少ないことが挙げられる。だがこの点に関してはDot Miniなどの安価でデジタルテキストデータを点字変換して使用できるデバイスの登場で状況は変わることだろう。



Dot Incorporationは現状では世界で2億8500万人という視覚障害者のみをその消費者として想定しているが、私はこれは、点字を新たに学習するということを念頭に置いて考えたとしても晴眼者にも有益なデバイスであると考える(点字は結局のところアルファベット、ひらがな、カタカナ、漢字などと同じただの筆記形態だ)。これが晴眼者にも用いられることで視覚障害者への理解も高まると共に、Dot Watchの持つような技術もまた発展していけば嬉しい。

先にもチラリと述べたが、Marvelコミックには盲目のスーパーヒーロー『デアデビル』(映画もあるしテレビシリーズも作られている)がある。特にテレビシリーズではスマートフォンで発信者名を読み上げたりや点字ディスプレイなどを使うシーンも登場する。このような作中でDot Watchなどが使われたらより大きな注目が集められるだろうと私はDot Incorporationに提案したが、そんな日が来ることを期待したい。

Image credit: Dot Incorporation, courtesy of Dot Incorporation

Source: Dot Incorporation

(abcxyz)

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