Kickstarterで2017年に目標金額の倍近い金額を集めてプロジェクトを成功させた「Smart Buckle」。普通の腕時計をスマート化することのできるこの製品をレビューする機会をGooseberryの共同創設者Alexei Levene氏に頂いた。
現在日本ではCampfireで資金を募っている真っ最中のSmart Buckle、果たしてどんなもんだろうか?
Smart Buckle
このSmart Buckleの売りは、なんと言っても普通の時計をスマート化することができると言うことだろう。ただし、ここで多くの人が持っている「スマートウォッチ」のイメージと照らし合わせると、ここでいう「スマート化」は少々違う可能性がある。Smart Buckleのもたらす「スマート」化の機能は、通知を知らせたりするような「スマートウォッチ」の機能ではなく、「アクティビティートラッカー」の機能だ。
現存する多くのスマートウォッチにはアクティビティートラッキング機能を持つものが多い。それらスマートウォッチは、多機能で確かに「スマート」ではあるかもしれないが、分厚くて、バッテリーは持たないし、いかにもナードが持っていそうで、ダサいしデザインの選択肢も狭い。じゃあアクティビティートラッカーはどうかと言えば、フィットネスマニアか、(やっぱり)ナードがつけていそうで、やっぱりデザインの幅は非常に狭く、そのうえ腕時計以外に手首を占拠する物体となってしまう。
そんな中に登場したSmart Buckleは、スマート性に置いてはアクティビティートラッキング機能に限定してはいるものの、そのおかげで腕時計のバックルという非常に小さな形の中にその機能を詰め込むことで、世の中に星の数ほど存在する美しい腕時計の数々をスマート化させることを可能にしたのだ。
しかしその根本の部分は斬新で革新的だ。ソニーはベルト部分をスマート化したWena Wristを出している。そちらはアクティビティートラッキング機能の他にも通知機能や電子マネー機能こそついているが、ステンレスバンドのみしかなくやはりデザインの選択肢に欠ける(wena wrist leatherという製品もあるが、それは電子マネー機能しかついていないものだ)。価格にしてもそちらの価格は3万円ほどするが、対するSmart Buckleは小売価格99ドル。Campfireでによれば日本希望小売価格は2万9800円と拮抗するものの、いまだ早期割引も存在し、それらだと1万9800円からとなる。
装着
Smart Buckleを手持ちの腕時計のバックルと付け替えるのは難しいことではない。腕時計のベルトを付け替えたことのある人なら、それと同じと考えれば問題無い。必要な道具は付属している。
なお、バックルの幅は20mmのピンバックル(穴留め式)もしくはスプリング式スティール・クラスプのものにしか使えないので注意しよう。Campfireでの説明によれば、ストラップ自体は18mmのものにも取り付け可能だが、緩みがあるとのこと(多分ストラップ幅に対してバックル幅が広いので緩むと言うことだろう)。
今回はElliot HavokのQuarter Century Watchに取り付けてみた。Quarter Century Watchのベルト幅は20mm、色は合わないものの、雰囲気は掴めると思う。
なお、Quarter Century Watchのベルト幅はあっているし、取り付けることは可能であるが、ベルトに元々ついていたバックル部のピンの長さは21mmで、Smart Buckleを取り付けるには少々短い。しかしご心配なく。Smart Buckleには工具だけではなく、バックルにピッタリの長さ(23mm)のピンも2本ついてくる。これでSmart Buckleをベルトに取り付ければピッタリだ。
注意点として、通常のバックル部分に主要部分が入っている分バックルとしては間延びした形状になっており、その末端に実際のバックルピンなどがいるため、Smart Buckleを腕時計のベルトに取り付けると、ベルト全体が少し長くなる。そのため、現在一番小さいベルト穴で腕時計がピッタリだという方は、もしかしたらベルト穴をもう一つ開ける必要が出てくるかもしれない。
重さは14.8g、装着感も普段となんら変わらないのは凄い。しかも、バックル部分はベルトでほぼ隠れるため、見た目の違和感もほぼない。なお「IP57」となっており、防塵5級、防水7級の性能を持つ。オウルテックのウェブサイトに記されている表を参考にすると、これは「防塵」かつ、水深1mで30分間水没しても内部に浸水しない「防浸」。だがこれは水中での運動などは多分考慮されていない等級なためか、Campfireでは装着したまま手を洗ったり雨の中を走るなどは問題無いが、「装着したまま水泳や入浴はしないでください」としている。
充電
充電器はこういう形状。Smart Buckleを上下から二つのパーツで挟み込む。両方のパーツは磁石により引っ付くのでSmart Buckleを容易に固定することができる。もちろん時計にSmart Buckleを装着したままで充電可能だ。
地味にうれしいのは、この充電器にはただmicroUSBポートが存在するだけであると言うこと。「それがどうした?」と言われるかもしれないが、特殊なケーブルを要するガジェットは意外に多く、出張や旅行の際にそれぞれに専用の充電器を持ち運ばなければいけないというのはとても邪魔なのだ。このように、microUSBポートだけが存在するデバイスであれば、ケーブルだけ数本用意していればそれをそれぞれの機器を充電する時のみに使用することで、持ち運ぶ無駄なケーブルも少なくて済む。
フル充電には60分しかかからず、バッテリーは一日8~10時間の使用で7日間使用できるとのこと。この点は数日おきに充電しないと行けない多くのスマートウォッチと比較してとても優れている点であろう。また、もう一つ素晴らしい点としては、スマートフォンとデータを同期できない状態にあってもSmart Buckle単体で2週間分のデータを保存しておけると言うこと。スマホを壊して2週間替えが来なくともアクティビティーデータは無事と言うことだ。
アプリ
Smart BuckleはApple(iOS 7+)とAndroid(4.3+)に対応。まだ製品化されて日が浅いとは言え、少なくともAndroidアプリはまだまだブラッシュアップが必要だろう。薄っぺらい表層的にオシャレ風にしてみた感の漂う布風バックグラウンドのアプリ画面となっているが、同時にその表面的なオシャレさは露骨なクオリティーの低さが滲み出すものとなっている。
インターフェイスも洗練されておらず、アクティビティーデータを示した「Move」ページは実は上向きにスワイプすることで週表記、もう一度同方向にスワイプすることで月表示をする事が出来るのだが、その操作が可能であることを示す表記はアプリ内には何も無い(説明書には記してある)。また、「Move」ページは下向きにドラッグして放すと(FacebookやInstagramなどのアプリで再読み込みの動作)Smart Buckleとアプリを強制的に同期させることが可能なようであるが、これについてもアプリを長いこといじってみて始めて気づく、説明書を含めどこにも表記のない機能である。
はっきり言ってダサいアプリではあるが、それでも、アクティビティートラッカーとしての計測結果の表示は十分だ。表示されるのは歩数、ペース(1分間あたりの歩数)、消費カロリー、動いた時間、移動した距離。これらは前日比の数値も表示されるのでモチベーションを上げる役に立つだろう。Smart Buckleのバッテリーも表示される。
また、Blackberry KeyOneにアプリを入れてSmart Buckleに接続しようとすると、Pebble Timeと競合するようで、Pebble Timeの方の接続が切れてしまうという現象が生じた。KeyOne+Pebble Timeをメインで使っているので、サブ機のPosh…もといUnihertzのJelly ProにSmart Buckleアプリを入れて接続したら問題無く機能した。スマートウォッチとSmart Buckleを同時に使おうという自分みたいな変人はまず居ないだろうが、そういう予定のある方はご注意を。
なお、アプリに関しては発展途上感はあるものの、今日もバグフィックスや接続の改善に関するアップデートが来ていたし、後述するが4月中旬にもアップデートが予定されているので、今後改善に期待できるだろう。
(スクリーンサイズが極小の2.45インチであるJelly Proでもアプリの表示内容は多少被さる部分もあるものの十分実用に足りる表示ができたことも記しておこう)
アクティビティートラッキング機能
さて、Smart Buckleは3軸ジャイロスコープ、角速度、モーション・センサーを搭載し、独自のアルゴリズムにより、Pebbleを買収したアクティビティートラッカーメーカーのFitbit製品よりも正確な計測を謳うが、肝心のアクティビティートラッキング機能はどうか。
100歩歩いて計測した場合を、同じく手首に付けるPebble Timeと比較した。結果:
Smart Buckle 121歩
Pebble Time 145歩
と、多少の誤差はあるものの、同じ手首についているデバイスであるにもかかわらず、Pebble Timeよりも正確に歩数を計測できた。もしかしたら、「時計」型デバイスであるPebble Time(やその他のアクティビティートラッカー)と違い、Smart Buckleの方がデバイスそのものが時計ベルトによってより手首に近い位置に押しつけられていることも正確性に影響するのかな、とも思ったり。なお、雪が溶けかかった道を、滑らないよう努力しながら歩いた歩数の計測であることも留意して欲しい。
各デバイスが表示したこの日の合計歩数も記しておくと以下の通り:
Smart Buckle 4441歩
Pebble Time 4659歩
Google Fit 4513歩 (スマホ単体で他のデバイスとデータをシンクさせていない状態のもの)
もう一つの機能としては、スリープトラッキング機能がある。これは入眠時間、起床時間、睡眠時の軽い眠り、深い眠りの長さ、合計睡眠時間を示すもの。こちらもアプリ側で週、月表示することが可能だ。
Pebble Time
入眠0:27 起床8:13
深い眠り4:39
(浅い眠り3:07 実際にはこの表示はないが、比較のため合計睡眠時間と深い眠りから割り出した)
合計睡眠時間7:46
Smart Buckle
入眠12:07 起床8:19
深い眠り3:39
浅い眠り4:10
合計睡眠時間8:12
なお現状ではバッテリーを長持ちさせるため、そして誤認識を避けるために、睡眠に入る前、そして起きた後にアプリから手動でスリープトラッキングモードにしなくてはならない(上画像の「asleep/awake」でトグル)。手間がかかると感じられるかもしれないが、これに関しては自動的にスリープトラッキングができるようになるアプリのアップデートが4月中旬に予定されているとのこと。
なおPebble Timeだと簡略的な表記ではあるものの、深い眠りと浅い眠りのサイクルが総睡眠時間の中でどのタイミングで起きているのか表示する事が可能。
アクティビティーデータはApple Health/Google Fitと統合させることも可能
まとめ
デバイスのデザインは美しいだけに、アプリのデザインの悪さ、更に言えば会社のロゴデザインの悪さ(ロゴのどぎつい緑色も含め)も妥協することなく今後ブラッシュアップしてもらいたいところだ。
主にデバイス以外の面で色々とアラはあるものの、これが革新的なデバイスであることは間違いない。Gooseberry社はSmart Buckleで特許を取得しているそうだが(具体的にどの部分が特許となっているのかはよくわからないが)きっと今後はこのような、日常的に使う物の普段目立たない部分、何気なくスペースをとっているものの十分に活用されていない部分、などがスマートデバイスやIoTに活用されていくことだろう。
すでにユーザーが所有する、腕時計という長年かけて洗練されていったデバイスを、目立たないように一部置き換えるだけでスマート化させるというそのアイデアは、ソニーのそれよりもさらに機能を限定することで、ユーザーのファッション選択の自由をさらに開け広げた。(類似したアイデアは2014年にも存在したが、Smart Buckleの方が全体的な完成度は上だろう)
現在のところIndiegogoから購入可能なものも、Campfireで出ているものも、今回レビューしたものと同じ艶のある銀色のステンレスバージョンしか提供されていないが、以前KickstarterとIndiegogoの方ではガンメタルグレー版と、ローズゴールド版、そしてすでにストラップがついているバージョンもリワードとして存在した。今回取り付けたQuarter Century Watchの色にもシルバーは合わないし、今後はもっといろいろなカラーバリエーションも期待したいところである。
なおLevene氏によると今のところは名は明かせ無いものの、現在スイスの高級時計会社とコラボレーション計画が進行中だという。今後もGooseberry社とSmart Buckleには期待できそうだ。
Smart Buckleは英語が得意で海外からの輸入もお手の物という方はIndiegogoから購入できるほか、日本のクラウドファンディングサイトCampfireでも現在資金調達中となっている。
この場をお借りして、Smart Buckleをレビューする機会を与えてくれたAlexei Levene氏に感謝を申し上げる。
Source: Kickstarter, Campfire, オウルテック
(abcxyz)
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