今回紹介するのはKickstarterプロジェクト「Pluto by earth: Portable, powerful, beautiful.」。
ポータブルバッテリーは世にあまたある。Pluto by earthもそんなあまたのポータブルバッテリーの一つだ。6000mAhで、ケーブルは便利な内蔵型。
ある意味、そこに斬新な機能や革新的な技術はない。このプロジェクトにあるのは、野心と、美の追究。しかし、クラウドファンディングキャンペーンに関しては少々つまずきがある感じは否めない。
Pluto by earth
「皆が夢を実現するために挑戦すべき、そしてそれを実現するにはルールを破らなくてはいけない。僕たちはこのアイコニックな製品を作ることでルールを破る」とプロジェクト動画で語るJoshua Aguilar。
earthという会社
今でこそキャンペーンページがある程度一般的なクラウドファンディングプロジェクトの紹介らしい見た目になっているものの、Pluto by earthキャンペーンが公開された当初、これは信憑性が高いものには見えなかった。
今だって、チーム紹介の最初に登場するのがCEOで創設者のAguilarなのはわかるが、それ以下のチーム紹介が「ビデオプロデューサー」から始まっているのは、はっきり言って変だ。これが「新しいプロダクトを生み出す」ためのプロジェクトではなくて、「新しく映画をつくるプロジェクト」とかだったら理解できるのだが。もしかしたらプロジェクトとしてはAguilarがフロントマンのプロモーションチームで、実際に製品を生み出すのはチーム紹介の下の方に居る東アジアの人々、みたいな感じなのかもしれない。もしくは、アイデアとプロモはAguilarらが担当し、デザインと製造を含めて東アジアに外注しているのかもしれない。少なくとも今のキャンペーンページの内容からもその辺は不明瞭である。
それでも私がこのプロジェクトを支援したのは、一つには(後述するが)このプロダクトが自分の需要に適っているから、そしてもう一つは、以下のことからだ。
実はこのプロジェクトクリエイターのJoshua Aguilarはスペインの起業家で、2013年にiTunesで『Diario Emprendedor』/『The Art of Entrepreneurship』という本を出版している。同書は僅か30ページ足らずながらも、スペイン語版、英語版の他にも数カ国語に翻訳され、ベストセラーとなっている。
EL PAÍS英語版の2014年のインタビューでは、自らの夢は「誰もが使いたくなるような製品を作る、誰もが働きたくなるような会社を作ること」だと語っており、インタビュー当時創設しようとしている会社としてearthの名もそこですでに登場している。そしてその通り、今回のKickstarterキャンペーンを行うAguilar率いる会社earthは、(同社のInstagramページを見る限りは)インタビュー後の2016年より会社として存在しているようだ。
(なおearthは、実は今回のPluto by earthのみならず、Dali by earthというスマート・ワイヤレス・スピーカーも12月に向けて計画している。こちらはearthの公式サイトに少し記載があるのみだが、実は前述の2014年のEL PAÍS英語版のインタビューで、記事執筆者がスピーカーのプロトタイプを見せてもらったと書かれている。)
つまり、会社としてのearthの計画は2014年の時点で存在していて、2016年に設立、ようやく2017年の今年この会社から初めての製品を出していこうというところ、というようなのだ。そうであればそうと、もっとキャンペーンページにしっかりそのことを書いていれば資金もきちんと集まったであろうが。もしかしたら、自身のこれまでの成功を過信しすぎたのか。
きっとクラウドファンディングに慣れていないためプロジェクト紹介が上手くいっていない(昔日本のクラウドファンディングサイトに出資したときにもそんなことを書いた気がする)のだろう。そんなこんなで私個人としては、このプロジェクトを信用して、出資にも至ったわけだ。
デザイン
キャンペーンこそ出だしでつまづいた感じはするものの、Pluto by earthのアイデアは悪くない。バッテリーが薄く、ケーブルも内蔵、しかもUSB-CとLightningという組み合わせは珍しい。USB-Cからは2.1A、Lightningからは1Aの出力が可能で、トータル出力は3.1A。バッテリーは6000mAhの物が内蔵されている。
見た目はApple製品と並べても恥ずかしくない雰囲気。ボタン類は廃したシンプルな形で、バッテリー残量は本体を振ることで表示され、確認できる。earthのロゴが配された鏡面仕上げの表面も美しい。本体の充電はUSB-Cポートから可能。この充電ポートは、給電に用いることも可能だ。
バッテリー残量表示を除けば他は全てシンメトリックに作られており、特にケーブルを本体側面に収納した状態で、充電用のUSB-Cポートと左右に収まるケーブルの姿は美しい。ネジも用いられておらず、一体感のあるデザインだ。
斬新性こそ無いものの、十分モバイルバッテリーとしての機能を果たしてくれそうだし、USB-CとLightning両方を使うという人にとってはとても便利そうだ。私自身はAppleユーザーでは無いのだが、親しい人々のiPhoneをLightningケーブルで充電する需要があることと、USB-Cポートを持つ現在のメイン機BlackBerry KeyOne(以前使用していた薄型モバイルバッテリーは出力アンペア数が足りないようで充電できない)や持ち運んで使っているGPD Pocketの充電に使うため、薄くて持ち運びに便利な、ケーブル内蔵モバイルバッテリーを探していたので出資してみた。
漢字がスマホに表示されるプロトタイプの映像もあるし、稼働するプロトタイプ段階の物が存在するのは間違いないだろう。まあ、プロトタイプがあったところでクラウドファンディングの世界ではそれが約束通りに届けられるかは別の話だが。
それでも、シンメトリックな美しいデザインのこのキャンペーンに現時点で23%しか資金が集まっていないのは、出資者達にプロジェクトの信憑性を納得させきれていないことの現れかもしれない。earthの現時点での目標は、将来的にPluto by earthをAppleストアで販売すること。
長い時間をかけて製品を作っているのであればその過程もきちんと伝え、出資者の信頼を勝ち取って、プロジェクトを成功させてもらいたいところである。
なお、毎度のことになる、クラウドファンディングプロジェクトへの投資というのはあくまでも製品化に向けての支援の投資であり、製品化に際する問題などにより予定発送日に遅れることは多々あるし、最悪の場合なにも届かないこともあるということも心に留めて、投資の際には自己責任で。
Image: Pluto
(abcxyz)
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